ウッドマイルズセミナー2010~環境、品質、多面的な地域材認証基準づくりを目指して
日時/2010年9月27日(月)13:00~17:00
場所/京都府職員福利厚生センター 3階第1会議室
主催/ウッドマイルズ研究会
共催/京都府、NPO法人京都・森と住まい百年の会
後援/林野庁、(社)日本林業経営者協会、(社)全国木材組合連合会、(社)日本建築士会連合会、(社)全国中小建築工事業団体連合会、(財)日本住宅・木材技術センター、(社)京都府建築士会、京都府地球温暖化防止活動推進センター、京都府産木材認証制度運営協議会
セミナープログラム
【第1部】環境、品質、多面的な地域材認証基準づくりの取組事例報告
①ウッドマイルズ研究会「木材調達チェックブック」検討作成の取組~検討作成状況、関連アンケート状況報告
藤原敬氏/(社)全国木材組合連合会常務理事
滝口泰弘/ウッドマイルズ研究会事務局長
②京都府ウッドマイレージCO2認証制度、領域拡大の取組~品質基準、供給体制、LCCO2
柴田繁氏/京都府農林水産部林務課主査
渕上佑樹氏/京都府地球温暖化防止活動推進センター
③木材供給事業者の取組~山長商店における木材の品質管理について
榎本崇秀氏/株式会社山長商店常務取締役
【第2部】取組事例報告を踏まえ、多面的な地域材認証基準のあり方を探る(意見交換会)
(ゲストパネラー)
古田裕三氏/京都府立大学大学院生命環境科学科准教授
池渕雅和氏/林野庁林政部木材利用課長
鈴木千輝氏/国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課長
+ 第Ⅰ部報告者
(コーディネーター)
白石秀知氏/NPO 法人京都・森と住まい百年の会 事務局長
地球温暖化防止や循環型社会形成を目指し、木材利用における環境貢献の見える化(カーボンフットプリント)、カーボンオフセット、長期優良住宅関連事業、木のまち・木のいえ整備促進事業、公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律等、国を中心とした国産材・地域材利用推進策が加速する中、各地域の具体的な木材利用推進の鍵となっている、自治体の地域材認証のあり方が問われています。自治体の地域材認証基準は、森林認証、産地証明、合法性証明、ウッドマイルズ、品質基準など多岐に渡りますが、現実的な利用拡大のために、単一的な評価基準から多面的な評価基準への改定を望む声が高まっています。
ウッドマイルズセミナー2010 では、各自治体の地域材認証基準に焦点をあて、基準の領域拡大を目指す取組事例報告を踏まえ、多面的な地域材認証基準づくりについてディスカッションを行いました。
セミナーには、官公庁関係者、森林・木材・建築関係者、学生、その他一般など、総勢63名が集まりました。概要を以下に報告します。
(フォーラムの開催にあたり、平成22年度独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の活動助成を受けています)
【主催者挨拶】藤原敬氏 ウッドマイルズ研究会代表運営委員
今回のセミナーは、「環境、品質、多面的な地域材認証基準づくりを目指して」という大きなテーマを掲げています。昨今の様々な環境貢献の「見える化」と共に、公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律も成立し、建築関係者を中心に、今まで以上に木材が注目されています。本日は、林野庁及び国土交通省の方々にもお越し頂きましたので、是非活発なご議論をお願い致します。
【共催者挨拶】今尾隆幸氏 京都府農林水産部理事
平成16年度に創設した京都府産木材認証制度により、木材の産地とウッドマイレージCO2を明らかにし、公共建築物への利用促進や府内の住宅に対する緑の交付金も含めて、府民に分かり易く伝えながら、府内産木材の利用促進を図っています。現在は、特定建築物の新増改築における一定量の木材使用の義務化を加えた、京都府地球温暖化対策条例の改正案を議会に提出していると共に、公共建築物の木材利用促進プロジェクトチームも発足しました。本日のセミナーの成果が、全国の地域材の利用促進につながることを期待します。
【第1部】環境、品質、多面的な地域材認証基準づくりの取組事例報告
①ウッドマイルズ研究会「木材調達チェックブック」検討作成の取組~検討作成状況、関連アンケート状況報告
藤原敬氏/(社)全国木材組合連合会常務理事 + 滝口泰弘/ウッドマイルズ研究会事務局長
生産過程の環境負荷
木材に限らず様々な商品を購入する時、値段や品質を比べますが、世の中のグローバル化に伴い、生産プロセスに対する意識が薄れていると思います。カーボンフットプリント等において生産過程の環境負荷を考える際、この生産プロセスを把握することが重要ですが、グローバル化が進むにつれて生産過程が見え難くなるため、信頼性を確保するためのコストも大きくなります。一方の近くで生産されている物に対しては、大きなコストをかけなくても、消費者が身近なところで生産過程の環境負荷を認識することができると思います。
木材調達チェックブックに取り組む背景と経緯
木材生産過程の中でも、輸送の「見える化」に着目したウッドマイルズの取組は、消費者にも分かり易く、京都府でも地域材認証制度の基準として活用されています。しかし、森林認証、合法木材、フェアウッド、ウッドマイルズ、カーボンフットプリント等、木材の環境貢献を「見える化」する様々な環境指標が登場する中、建築関係者とのやり取りにおいては、ウッドマイルズだけではなく「品質」や他の環境指標も含めた総合的な指標の要望や、多岐に渡りかつ難解な環境指標は使われないこと等が分かり、木材の指標の統合を目指した取組を始めました。その1つとして、分かり易くバランスのとれた指標の使い方をサポートするツール「木材調達チェックブック」の検討作成を、今年度始めました。
ウッドマイルズフォーラム2010(東京)
指標の統合を目指した活動の一環として、6月に東京で、「今どのような木材調達基準をつくるべきか」をテーマにフォーラムを開催しました。フェアウッド調達基準、地域プレカット工場主体の森林認証材、みなとモデル二酸化炭素固定認証制度などの取組事例報告とパネルディスカッションを行い、補助を含めた活動の持続性や、木材の品質、環境指標の統合などについて議論しました。フォーラムの詳細や意見交換会の模様はこちら(ウッドマイルズ研究会HP)
木材調達チェックブックの検討状況
ウッドマイルズ研究会会員有志が集まり、木材調達チェックブックの検討会を始めています。自治体・設計者・工務店などの建築物のつくり手と一般市民を対象者として、既往の指標をどのように使うべきか、総合的に見出せるよう整理された情報提供、及び基本的に到達すべきレベルを設定し誘導を図ることを目的とした、チェックブックを検討しています。現状では、①産地(森林の持続可能性の担保)、②流通(履歴確保、信頼性・透明性)、③省エネルギー(木材生産の環境負荷削減)、④基本的な品質(強度、含水率)、⑤長寿命(木材の長期利用による炭素固定)という、5つのモノサシで木材を計ることとし、既往の指標をうまく利用して、木材調達のレベルを明示できるようなサポートツールとしてまとめることを考えています。
関係者アンケートの状況報告
チェックブック検討作成に際し、各自治体の林務担当者、及びウッドマイルズ研究会関係者(関連事業者、一般)の簡易アンケートも実施しています。各自治体の林務担当者の回答(21の自治体)からは、地域材認証基準に用いられている環境指標は、産地証明・合法性証明が圧倒的に多く、品質については、JASだけではなくJASに準じた独自基準も運用されている状況が分かりましたが、産地・合法性の証明の的確性や、環境・品質指標の追加・拡大、基準に適合する材の確保、公共部門以外のニーズの確保など、多くの課題も寄せられました。公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律への対応策としては、国の基準の内容により検討する、未定、という答えがほとんどでした。本日のセミナーの議論も踏まえ、よりよいチェックブックづくりを進めたいと思います。
木材調達チェックブック検討作成の詳細はこちら(ウッドマイルズ研究会HP)
②京都府ウッドマイレージCO2認証制度、領域拡大の取組~品質基準、供給体制、LCCO2
柴田繁氏/京都府農林水産部林務課主査 + 渕上佑樹氏/京都府地球温暖化防止活動推進センター
ウッドマイレージCO2認証制度の現状
京都府産木材認証制度(ウッドマイレージCO2認証制度)は、制度創設から6年目を迎えます。京都府産木材証明書において、木材の輸送経路、及び輸送時のCO2排出削減量を具体的に明示することを通じて、京都府産材の利用を普及啓発しています。京都府産木材を生産する取扱事業体数(H21、230件)、及び利用する設計者・工務店などの緑の事業体数(H21、235件)は順調に増加しており、緑の交付金(住宅への助成、1万円/m3、上限20万円)の実績も、平成21年度は187件と増加傾向にあります。今年度は6月の補正予算にて、リフォームや店舗、事務所、児童福祉施設等へ、制度を拡大すると共に、府の施設やまちづくりにおける利用促進にも取り組んでいます。京都府産木材証明書発行実績も年々増え、平成21年度は3,970m3となっています。
国の動きへの対応
公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の成立に伴い、京都府においても、副知事をトップとした府内産木材利用促進プロジェクトチームを設置し、公共土木事業や公共建築物における府内産木材の率先利用、民間需要の喚起などに取組むことになりました。具体的には数値目標なども含めた基本方針を策定し、利用拡大を図っていきます。また、現在開催中の議会においては、府内の特定建築物の新増改築における一定量以上の府内産木材利用の義務付けを盛り込んだ、京都府地球温暖化対策条例の改正案を提出しているところです。
今年度の新たな取り組み
現状の認証制度は「産地」と「環境性能」のみを証明していますが、地域材利用促進の動きに対応するため、今年度、新たな取組を始めました。一つ目は「製品の安定供給」です。受注生産的で供給量の少ない府産木材の供給体制を強化するための、共同ストックヤード設置の検討や、個々の事業体のストック量を把握し情報共有するための、ウェブサイトを活用した新しい流通の開発を検討しています。二つ目は品質です。京都府産木材認証制度運営協議会内に、品質基準制定検討委員会を設置し、品質基準の検討を行っています。三つ目は環境指標の拡大です。輸送以外のプロセスをも評価するため、制度の指定認証機関である京都府地球温暖化防止活動推進センターにおいて、ウッドマイレージCO2からLCCO2への指標の拡大を目指した検討を始めています。
環境指標のバージョンアップ
現状のウッドマイレージCO2から、LCCO2への指標の拡大として、府内産材のカーボンフットプリント表示を検討しています。輸送過程における木材の地産地消の貢献が、本認証制度を通じて明らかになりましたが、京都の森を豊かにする、CO2を総合的に削減する、という点においては、まだまだ課題があると思っています。最近の研究成果では、木材の生産における乾燥エネルギーの大きさが問題視されていますので、間もなく計算のルールが完成するカーボンフットプリントを用いて、総合的に京都府産材の環境負荷を計る取組を続けていきたいと思います(昨年度行った、京都スギ合板の製造過程におけるCO2排出量の試算では、輸送過程のみでは87%の削減効果が出ましたが、製造過程全てでは44%の削減効果になりました)。そして、府内産木材のカーボンフットプリントの正確な表示と共に、魅力的な情報として消費者に発信できるような付加価値についても、同時に検討していきたいと思っています。
京都府産木材認証制度の詳細はこちら(京都府地球温暖化防止活動推進センターHP)
③木材供給事業者の取組~山長商店における木材の品質管理について
榎本崇秀氏/株式会社山長商店常務取締役
山長商店と紀州材の概要
弊社は紀州産木材のメーカーとして、住宅用構造材・羽柄材を中心に生産しています。江戸中期に紀州備長炭の商いから始まり、山林を取得。現在は約5,000haの森林を所有し、プレカット工場も含めた一貫生産体制により、首都圏を中心に住宅約700棟分/年の木材供給を行っています。紀州材は目詰まりが良く(植栽本数が5,000~5,500本/ha)、スギ・ヒノキともに一般地域に比べ強度分布が高いのが特徴です。弊社の全数検査の結果でも同様の強度分布が見られます。
JASを主とする品質管理
50~60年生以上の背割り無し乾燥材を主力商品として、含水率・強度の全量検査、及び産地・合法証明も含めた印字を行っています。柱材は全量JAS製品として、横架材についても一部を除きJAS製品として出荷しています。無等級材ではなく、正確な材の強度を実務でも使用して、特に紀州材の高強度の価値を認識してもらいたいということが、JAS認定取得の主な理由です。JAS製品において、特に難しいのが乾燥です。紀州材は吉野材に比べ芯目が多少開き、外側に行けば目が詰んでくるのが特徴で、乾燥機メーカーとのやり取りでも、とても難しいと突き返されることが多かったです。色々と研究を重ね、新たに高温蒸気式減圧乾燥機を導入しました。初期コストは高いですが、60℃という低い温度で乾燥可能なため、変色や内部割れの軽減に有効です。
供給体制、バイオマスボイラー
国産材の難点の一つに、納期の遅れや品質のバラツキなどの、安定供給の問題がありますが、在庫を多く持つことで対応しています。並材、化粧材、良材、難がある材など、こちらで分別し、当たり外れのない木材の供給に心がけています。いつ頼んでも安定した品質かつ遅れのない納期、という部分が工務店に最も喜ばれているところだと思います。また、新たな環境貢献として、減圧乾燥機にバイオマスボイラーを導入しました。燃料を灯油から、製材・プレカット工程で発生する樹皮・おが屑・プレーナー屑・木端の混合物へ代替し、人工乾燥ですがカーボンニュートラルである乾燥を実現しました。本日度々登場している「乾燥エネルギー」の件ですが、バイオマスボイラーの燃料を確保するためには、たくさん製材する必要があります。燃料用のチップ等を、外から買ってきて燃やすということは現実的には考えにくいため、必然的に大規模工場でしか成立しません。地域密着型の中小製材工場へのバイオマスボイラーの導入は、現実的に難しいことが大きな課題です。
工務店、住まい手のニーズ
弊社の材を選んでもらっている理由の一つは、一貫生産体制による、質・量の安定供給力です。今はプレカットが主流ですが、そもそも、現し材に対応できるプレカットを目指してきたことや、豊富な在庫でプレカット流通に対応すること、継続的な品質の安定などが、現在の工務店ニーズと一致しました。もう一つは品質の「見える化」です。国産材のマイナスイメージを払拭すべく品質管理を行っていますが、詳細は分からないがJASという公的認証等の明示に対して、住まい手が納得・安心し、工務店にとってもこれが材料クレームに対するリスクヘッジになっています。工務店の材料調達基準は、供給安定性≧品質性能>生産履歴>環境貢献、という優先順位で、切実な課題以外のトレーサビリティーや環境負荷削減、森林認証等は、余裕があれば取り組む、というところが現状だと思います。
山長商店の詳細はこちら(山長商店HP)
【第2部】取組事例報告を踏まえ、多面的な地域材認証基準のあり方を探る(意見交換会)
(コーディネーター)白石秀知氏 NPO 法人京都・森と住まい百年の会 事務局長
【ゲストパネラーの自己紹介・活動紹介】
古田裕三氏 京都府立大学大学院生命環境科学科准教授
京都府産木材認証制度の品質基準づくりの座長を引き受けています。一方で国の木材・プラスチック再生複合材JIS化委員会の委員長もやっています。元々通産省の工業技術院に居ましたが、工業界では、金属・プラスチック・セラミックスが3大材料と言われ、木材は入っていません。日本には木の文化があり、木質の工芸は進んでいますが、一方の工業材料には詳細かつ膨大な基準があり、木材がこれらと戦えるのかという問題があります。工業材料はトレーサビリティーよりもまずは品質だというのも常識です。しかし木材でもナノテクや合成木などの研究も進んでいいて、京都府でも合板ガードレールやスギ圧密単板等の開発事例があります。「工芸」と「工業」をいかに成立させるか、職人技で売れる世界はいいが、一般に広く分かってもらうためには「工業」も必要です。「工業」を成立させるためには材料の信頼性が必須ですが、これをどうするか。山の樹は木材になるために生きているのではありません、このような樹の特性を知り尽くしてこそ、木が活かせると思っています。
京都府立大学大学院生命環境科学科(環境科学専攻)の詳細はこちら(京都府立大学HP)
池渕雅和氏 林野庁林政部木材利用課長
木材利用課では、公共建築物の木材利用、木質バイオマス利用促進、木づかい運動による消費者への普及、違法伐採、WTO等の貿易問題などに取組んでいます。昨年政権が交代し、新たに作られた森林・林業再生プランでは、10年後の木材自給率50%という高い目標を掲げています。日本の充足している森林資源に対して、間伐だけではなく路網整備等により木材を出し、積極的に使ってもらうことが我々の使命ですが、まずは国自らが使っていくべきということで、公共建築物への利用促進が法律化されました。公共建築物の木材利用率は低く、潜在需要も大きいです。これに伴い自治体や民間事業者においても促進してもらい、幅広い木材利用を誘導していくことが目的です。10月から施行される法律は、農林水産大臣・国土交通大臣による基本方針の策定、及び公共建築物に適した木材を供給するための施設整備等計画の認定、という2つが大きな柱となっていますが、官庁営繕における技術基準の整備や、様々な課題に対する予算による支援も予定しています。
公共建築物木材利用促進法の詳細はこちら(林野庁HP)
一方の環境貢献度の見える化ですが、カーボンフットプリントによる省エネ効果、炭素貯蔵効果、間伐貢献度、という3点による定量的評価に取組んでいます。カーボンフットプリントについては、平成21年度より農林水産省、経済産業省、環境省、国土交通省の連携による試行事業が行われており、今年8月にNPO法人才の木が、木材・木質材料の商品種別算定基準(PCR)の認定申請を行いました。これが認定されれば、木材製品についても各事業者が算出できるようになります。
カーボンフットプリントの詳細はこちら
鈴木千輝氏 国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課長
官庁営繕部では、国の建築物の整備や官庁施設の基準づくり・維持保全の助言指導等を行っています。公共建築物における木材利用促進法に伴い、基本方針(案)のパブリックコメントを8~9月にかけて実施しました。基本方針(案)では、建築基準法等の法令で耐火建築物とすることが求められない低層の公共建築物について、積極的に木造化を推進するという基本的事項や、国が整備する低層の公共建築物は原則としてすべて木造化すること、及び全ての公共建築物について国民の目に触れる機会が多い部分を中心に内装等を木質化する、という目標等が掲げられています。また、木造技術基準の整備として官庁営繕基準づくりに取り組んでおり、この基準は国だけではなく自治体にも積極的に周知していきたいと思っています。具体的には、木造計画・設計基準(仮称)を新たに策定し、必要に応じて従来の木造建築工事標準仕様書の見直しを検討することとしています。木造計画・設計基準(仮称)は、計画・設計の効率化に資することを目的に、今年度内の制定を予定していますが、迅速に取りまとめを行う観点から検討内容の重点化に努めると共に、国の建築物で多い事務所建築について特に整理を行うこととしています。設計手法や工法等については、選択の幅が狭まらないよう、柔軟な対応が可能となるよう留意するなど、有識者による基準検討会において、検討を進めています。
木造計画・設計基準(仮称)の詳細はこちら(国土交通省HP)
それでは、事例報告に対する会場も含めた質疑応答から始めたいと思います(白石氏)。
環境指標のメリットについて
・環境指標を組み込んだ京都府産材を活用した住宅は、200棟/年ほど建っていますが、そのうち半分は、補助金があるからということが主な理由です。しかし、補助金対象でない10~20棟くらいは、他の工務店との差別化という視点から、産地と環境認証を施主にPRしたいので証明書が欲しいというニーズがあり、徐々に年々増えています。安定供給体制+環境認証があれば、消費者も一定の満足度を得ることができます。このあたりを拡大できれば、補助金が無くても継続できる制度にできると思います(渕上氏)。
・LCCO2までやるのであれば、木材だけでなく他の建築資材との比較も行えるのではという意見ですが、国のカーボンフットプリント制度の整備が進めば、共通の指標で他材料との比較ができます(渕上氏)。
JAS認定について
・JAS認定工場が増えない理由は、一つは杉の乾燥の難しさですが、もう一つはコストです。機械等級区分にはAタイプ(等級格付けと定期検査を全て自社で行う)、Bタイプ(等級格付けは自社で、定期検査は外部機関で行う)がありますが、Aタイプの自社検査に必要な機器は1000万円程度かかり、イニシャルコストが高いです。一方のBタイプは外部に検査を出すお金がその都度かかり、ランニングコストが高いです。山長商店はAタイプですが、検査スケジュールが自社の都合に合わせられることがメリットです。また、JASは格付けされた製品量に応じて賦課金も課せられます(榎本氏)。
・JAS認定でなくても品質を確保することはできますが、公的認証にはなりません。一方で関係者がメリットとデメリットを納得の上、ニーズを満足できるものであれば、自社基準でも良いと思います。山長商店は、高品質に管理された木材を目指してやってきたので、その結果として公的なJASを取得することに至りました。全ての生産者に対してJASが必要だとは思いませんが、住まい手が木材を選ぶという方向も出てきた中で、施工者が大丈夫と言うだけでは満足できない施主も増えていると思いますので、JASに限らず第三者的な情報を木材につけていくことが重要です(榎本氏)。
・基準を満たさない木材についてですが、強度ではなく含水率と乾燥割れにより不可となる材が多いです。小口面にこれらの情報をマーキングし選別して、有効利用しています。4mで使えないものは3m材として利用する、地域には牛舎や納屋もあるため、訳あり材としてで分かってくれる人へ供給するなどです(榎本氏)。
続いて、本日のセミナーのテーマでもある、環境指標、品質基準、そして各々の両立等についてご意見を伺います(白石氏)。
・現在のマーケットでの環境ニーズはまだまだである中で、公共建築物の促進法が全会一致で通った理由は、地球環境問題です。木材の環境貢献の有無は、今後より大きなテーマになります。木材調達チェックブックは、今後必要となる環境貢献を示す様々な指標を、まずは整理して分かり易くまとめようという取組です。品質については、JASのコストが大きな問題ですが、世界中で信頼できる製品にしようという精神で出来ていますので、その分のコストがかかる訳です。これを地域材のところまで持ってくるべきか否かは、議論が必要ですが、自治体の品質基準を横並びに見て、他の自治体の基準もある程度認めるといった仕組みが、JASとは別に出来るような気がします。ウッドマイルズは近くの木材にこだわってきましたが、その観点から品質基準についても何か提案ができるのではと思っています(藤原氏)。
・京都府は、環境は先進県だが、品質は後発県です。中小事業者が多く、そもそも大手企業を見据えたJASは不向きです。JISも対象は明らかに大手です。品質基準はJASより落とさずに、いかにして費用を落とすかを考えていけばいいと思います。JISでは、製品の多様化に伴い、数値による品質基準を設けずに、当事者間の相談によるという内容をどんどん盛り込んでいく、というのが今の方向です。これに応じてJASも変わっていって欲しいです。JISでは、素材、試験方法、製品という3つを規定していますが、例えば柱材、間柱材、下地材という部位の違いで要求が異なるように、多岐に渡る製品のところの基準は当事者間で決める、ということです(古田氏)。
・国の施設はある程度大きな規模となります。許容応力度設計が必要となり、やはりJAS材を使わざるを得ない現状がありますが、その他の規模の小さなもの等は、JASでなくてもよいと思います。ただ品質が分からないものでは駄目なので、そこで地域材基準等が使えればよいと思います。合法性の証明やグリーン購入法などから、99%合法性証明のとれた木材使っていますが、どうしても証明がとれない木材もあります。木材の使用者としては、産地証明・合法性証明については、地域の一つの役割として大切だと思います(鈴木氏)。
・JAS材は全体流通量の2割程度しか無いのが現状ですので、全てJASに限定することは現実的でないです。当面は、各都道府県の地域材認証基準も活用していく方向でないと難しいと思います(池渕氏)。
・木造の構造設計をできる設計者が少ないという話も聞きます。そうすると、集成材の方が強度計算も容易で、集成材利用が増えると思います。また、入札で安い方となると、安い欧州の集成材の需要が増えるのではないでしょうか。このような状況では。品質表示があっても無垢材は使い難いのでは?(会場)
・どういう基準を作ればよいのか、今検討中ですが、工事の発注の際にもあまり限定されることはよくないので、とにかくこれしかできません、というものにならないように配慮したいと思っています(鈴木氏)。
・国際的なルールとの関係では、国産材だけ使うということは言えません。できるだけ国産材を使って欲しいということで取り組んでいますが、木造建築物の担い手不足も確かにあります。担い手の育成や、国産材集成材の技術開発なども支援しています。23年度予算の要求段階ではありますが、製品の規格化や、木造に慣れていない設計者でも容易に設計ができるソフトの開発支援などを要求しています。予算が採択されれば積極的に行っていきたいと思っています(池渕氏)。
・今すぐ性能を担保して、かつ国産材となると、集成材になってしまうと思います。製品としては集成材が使いやすいですが、製材時の歩留まりが一番悪いので、山側にとっては負担をかける製品です。山側の気持ちとしては、やはり無垢で使って欲しいです。また、集成材は大規模工場が必要となり、結果として大企業が肥えていくという構図になりがちです。地域の顔の見える家づくりの大部分は、中小製材と地域密着型工務店です。JASについてもコストや認定の緩和策がないと、法律は出来たが、実際には集成材しか使えないという状況になってしまうかもしれません(榎本氏)。
各都道府県の地域材認証制度は、今までは地元の山を生かすことを主目的に作られてきたと思いますが、現状では、公共建築物や幅広い利用のための基準づくりが求められていることが、今日の議論でも明らかになったと思います。各パネラーから最後にコメントを頂きます(白石氏)。
・鉄やアルミといった大手企業主導の工業製品とは異なりますが、だからといって木材の品質はないがしろにできません。「工業」と「工芸」の中でどのような基準を見出して行くか、JASから外れないような品質基準で、かつ中小事業者でも可能な安い費用で運用できる制度を、この京都府から発信したいと思います(古田氏)。
・今回の法律は、公共建築物以外でも幅広く木材利用を拡大していくことが目的です。良質な国産材の安定供給が可能な、川中といわれる木材産業の体制づくりも重要な課題です。川下では、公共建築物で木を使うと高いというイメージもありますが、例えば一般の住宅用木材を使えば、方法によっては安くできるという事例もたくさん出てきていますので、このような情報提供もどんどんしていきたいですし、環境貢献の見える化についても積極的に取り組んでいきたいと考えています。政権交代に伴い林野行政も大きく変わり、そういったこともどんどんアピールしていきます。来年は国際森林年です。改めて森の大切さを訴えていきますので、引き続き皆さんのご支援を頂きたいと思います(池渕氏)。
・法律の成立により、公共建築物にどんどん木材を使っていこうということですので、木材を使う側としては、木造化が進むような基準を年度内に作っていきたいと思います。そして色々なところで周知していきたいと思っております。品質のしっかりとしたものが供給されるよう、供給側でも頑張ってほしいです(鈴木氏)。
・先日ある先生から、国産材に強い風が吹いているが、このままいくと暴風雨になりかねないと言われました。木材業界においても国をあげてここまで国産材が推進されることは今までなかったことです。我々木材業界もそれにしっかりと答えるべく、アンテナや経営体力も含めて頑張らないと、せっかく需要が掘り起こされたときに何もできなくなってしまいます。国産、地域というレベルは問わず、山と町の市民が良いチェーンでつながるよう、またつながりが強くなることを願っています(榎本氏)。
・京都の認証制度では、苦手な品質や安定供給にしっかりと取組み、これから増えるニーズに振り向いてもらえるようになること、そして振り向いてもらった時に、他と違う魅力的なものとして環境指標があればよいと思っています。また環境NPOとしては、事業者のニーズがまだ少ないからやらないのではなく、それとは別に、環境保全のために必要なことであるという、強いスタンスでやらなければいけないと思っています(渕上氏)。
・環境貢献として行っている認証制度に、京都という地域で実現可能な品質基準を加えるべく、業界の方々と一緒に検討しています。京都府としてもプロジェクトチームを立ち上げ、自らも率先して利用していくという姿勢で、府内産木材の利用に一層取り組んでいきたいと思います(柴田氏)。
・環境指標と品質基準の統合というチャレンジングな議論でしたが、基準というのは、誰にでもすぐにわかって、そして単純な方がいいと基本的に思っています。環境指標については、NPO法人才の木で、木材製品のカーボンフットプリントのPCR基準原案を提出したところです。これが出来れば他の製品と同じ指標で比べることができ、そういう意味で単純化されていくと思います。一方の品質基準ですが、民主政権の中では、今後大量に出てくる製材をどのように使うのかが大きな課題です。その中で住宅や公共建築物に使っていくことが大きなポイントになりますが、木材産業は供給する立場にあって、使う側のニーズを本当にとらえているのかが一番大きな課題です。設計者、住まい手、施工者が本当に欲しがるものは、安心で安全で快適なものを求めるのはあたりまえのことです。その時に、もちろん必要ない物もありますが、何らかの品質基準が必要になります。JAS製品はあまり流通していませんが、他に代わるものがあるでしょうか。なければ新たにつくるか、JASの流通量を強化するための仕組みと技術開発が必要であって、むしろ地域材認証にJASを組み込むことは、結果として各地域での囲い込みを図るだけであって、決して使用者側にとってプラスにならないと思います。違う基準がたくさん出てきて、どこでだれが整備しているかわからない、という状況になってしまうのではと危惧しています。とにかくJASの中で費用を抑える仕組みと技術開発が重要です。そして、使用者のメリットを考えることが第一です。ここではあえて、アンチテーゼとしての意見を申しました(川井氏/NPO法人才の木理事長)。
・法律に対する国の基本方針がでる直前に、国からもゲストをお招きしてセミナーができたことは、とてもタイミングがよかったと思います。品質をどのように使用者に伝えるか、そしてこれからますます重要になる環境指標、こういったものをきっちりとやって、国産材に対する今の風が吹いた後に、各地域の山が本当にうまくいくようになるかどうかを、最終的には考えていかなければならないと思います。そうなるために消費者と山の信頼関係をどのように築いていけるのか、ウッドマイルズも物理的な距離だけではなく、いろいろな意味での距離を扱っていかなければいけないと思っています。ウッドマイルズの取組はチャレンジングではありますが、よいタイミングだと思いますので、是非応援して頂けたら幸いです(藤原氏)。
- 作品名
- セミナー2010
- 登録日時
- 2010/10/05(火) 15:10
- 分類
- 2010年度