ウッドマイルズフォーラム2010
~地球環境時代の今、どのような「木材調達基準」をつくるべきか
日時/2010年6月19日(土)13:30~17:30
場所/木材会館7階「檜のホール」
主催/ウッドマイルズ研究会
後援/林野庁、(社)日本林業経営者協会、(社)全国木材組合連合会、(社)日本建築士会連合会、(社)全国中小建築工事業団体連合会、(財)日本住宅・木材技術センター、(社)東京建築士会
フォーラムプログラム
【第1部】具体的な取組事例報告~木材調達「環境」基準づくりの現場から
①ハウスメーカーのフェアウッド調達基準と実践
中澤健一氏 国際環境NGO FoE Japan/フェアウッド・パートナーズ
②富士山木造住宅協会の地域材調達基準と実践
遠藤龍一氏 富士山木造住宅協会事務局長
③港区の地球温暖化対策とみなとモデル(二酸化炭素固定認証制度)の検討状況
吉野亜文氏 港区環境リサイクル支援部地球温暖化対策担当課長
【第2部】パネルディスカッション~環境時代の今、どのような木材調達基準をつくるべきか
速水亨氏 速水林業代表、社団法人日本林業経営者協会会長
榎本崇秀氏 株式会社山長商店常務取締役
藤原敬氏 社団法人全国木材組合連合会常務理事
藤本昌也氏 社団法人日本建築士会連合会会長
岡崎時春氏 国際環境NGO FoE Japan 副代表理事
熊崎実氏 一般社団法人日本木質ペレット協会会長
+第1部報告者
(コーディネーター)三澤文子氏 岐阜県立森林文化アカデミー客員教授
地球温暖化防止や循環型社会の形成を目指し、国産材や地域材の利用推進が加速する中、国、自治体、民間事業者など、様々なところで木材調達における新たな方針や基準づくりが行われています。強度、乾燥、という従来の木材品質基準だけではなく森林認証、フェアウッド、合法木材、ウッドマイルズ、カーボンフットプリントなどの様々な環境指標が登場しています。一方で、多岐に渡りかつ高度な指標は木材の主要なユーザーである建築関係者の現場では使い難いという声も多く、環境貢献を中心とした国産材や地域材利用の意義が、その先のエンドユーザーに伝わっていない実態があります。
ウッドマイルズ研究会では、多岐に渡る一連の環境指標を整理し、木材利用の現場で使える情報として提供することで、国産材や地域材利用の普及に寄与する「木材に関する環境指標の連携及び統合」をテーマとした活動を行っています。今年度その一環として、実務で使える「木材調達チェックブック」の検討作成を始めました。
これからの木材調達や利用に関する方針・基準が問われている今、自治体や事業者における木材調達基準づくりの現場からの報告を踏まえ、これらに対する専門家を交えたパネルディスカッションを通じて、どのような木材調達方針や基準をつくるべきかを考えるため、フォーラムが開催されました。
フォーラムには、官公庁関係者、森林・木材・建築関係者、学生、その他一般など、総勢91名が集まりました。概要を以下に報告します。
(フォーラムの開催にあたり、平成22年度独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の活動助成を受けています)
【主催者より】藤本昌也氏 ウッドマイルズ研究会会長
木材の問題は建築などの川下だけではどうにもならず、産地や製材等の川上も含めて一体的に捉えなければ解決しません。私は日本建築士会連合会会長という立場でもあり、地域の建築士の人達が、地域でしっかりとした木造建築をつくろうと呼びかけも行っています。また、国土交通省や林野庁で、木材や木造建築に対する様々な施策が登場している中で、どのような切り口で、どのように具体化していくかがとても重要です。ウッドマイルズを含めた木材の環境指標は、具体化に際して注目すべきテーマですので、本日のフォーラムを通じて理解を深めて頂けたら幸いです。
【フォーラムの主旨について】藤原敬氏 ウッドマイルズ研究会代表運営委員
ウッドマイルズ研究会は、木材の輸送負荷の縮小を目指して発足以来、自治体や関係業界と共に木材輸送に関する環境指標として、ウッドマイルズの普及活動を続けています。今年は公共建築物等における木材の利用の促進に関する法案の成立などもあり、今まで以上に多くの建築関係者が木材に興味を持ち始めています。森林や木材の環境指標の流れは、熱帯木材問題~持続可能な開発~森林認証という森林に関する流れや、ウッドマイルズ~合法木材~カーボンフットプリントといった木材製品に関する流れなど、多岐に渡ります。また、木材利用者にとっては環境だけではなく品質の指標も重要です。建築その他木材を利用する人達が、ウッドマイルズだけではなく様々な指標を知り、考え、総合的に取組んで頂く事が今後は重要であるという主旨で、今回のフォーラムを企画しました。実際に異なる立場で取組んでいる3つの事例や、その後のディスカッションを通じて、皆さんの取組の出発点にして頂けたら幸いです。
【第1部】具体的な取組事例報告~木材調達「環境」基準づくりの現場から
①ハウスメーカーのフェアウッド調達基準と実践
中澤健一氏 国際環境NGO FoE Japan/フェアウッド・パートナーズ
フェアウッド
今世の中に流通しているアンフェアな木材を、いかにフェアな木材に代えていくかということで、大口の消費者、かつ地産地消とは対極的な世界であるハウスメーカーに対しての働きかけをしています。
フェアウッドとは森林を破壊しない木材という目的で、再生木製品や古材廃材利用製品、違法伐採でない木材、産地が近い、地域住民自らが適切に管理している木材(フェアトレード)、第三者機関の森林認証木材、といった幅広いコンセプトを包含するものとして定義しています。
ハウスメーカーへの取組
日本の木材住宅は世界の木材展と言われるほど、世界中の木材が使われています。このような家づくりをリードしてきたハウスメーカーは、住宅の工業化、膨大な木材調達量、多種多様な産地、製品、樹種の使用、コストと品質の厳しい管理、縦割り大所帯による社内の意思疎通の難しさ、等が特徴ですが、このようなビジネスの中で成立する木材調達でなければ、提案しても実現化はされません。まずはリスクの把握と回避(こんな木材は買わない)、そして徐々にフェアウッド材へシフトしていく(こんな木材を買っていきます)、というやり方で進めています。この仕組みは積水ハウスや東急ホームズで導入しています。
リスクの把握と回避
膨大にある調達品の種類、仕入先、産地、量などをリストアップしデータベース化します。やってみると分からない所も多く出てきますが、調査を通じて仕入先等とのコミュニケーションも生まれます。そして、レッドリストや国際条約等に照らし合わせ、リスクの特に高いものがあるかどうかを評価し、このハイリスクの物は速やかに切り替え、また認証材等のリスクの無いものも除外した、残りの部分を対象として、公開されている各国の違法伐採の推定割合や腐敗認知指数マップ等を用いて、違法伐採や持続可能性のリスク評価を各々数値化し、優先順位を付け、対策を講じていくという流れです。
合法であっても熱帯林の大規模皆伐+植林というやり方もあり、本当にこれで良いのかという部分について、生態系や植生回復、地域社会への影響等、幅広く考慮する必要があります。保護価値の高い森林という参考になる指標もあります。
フェアウッド材へのシフト、調達基準の実践
ハウスメーカーでも最近は合板や集成材等の国産材化が進んでいます。ウッドマイルズのデータもメーカーに説明する際には有効です。森林認証材を選ぶことも、ヨーロッパではかなり積極的に進んでいます。日本向け輸出材の産地でも、森林認証が整ってきているので、メーカーが求めさえすれば、山にはあるという状態です。フェアウッド調達基準の実践状況は、部分的に国産材や認証材を採用するメーカーが増えている一方で、リスクの把握と回避の仕組みまでを採用しているところは少ないです。
取組の効果は、仕入先や商社等への効果は想像以上に大きく、社員の啓発効果も大きいです。課題は、ハウスメーカーとの新規取引はハードルが高く、地域の中小製材所や建材店は、一度、取引先である大手製材所等へ納品しなければならず、地域の活性化に繋がっていかないことで、将来的には地域の営業所毎に近くの産地・製材所から分散調達できる仕組みに発展していければと思っています。
取組の詳細はこちら(フェアウッド・パートナーズHP)
②富士山木造住宅協会の地域材調達基準と実践
遠藤龍一氏 富士山木造住宅協会事務局長
富士山木造住宅協会
(社)全国中小建築工事業団体連合会(全建連:約7万3千社)の各地の下部組織の1つとして、静岡県で活動しているのが富士山木造住宅協会です。平成20年に発足し、富士山の静岡を中心に山梨、神奈川、東京の建築事業者等で構成されていて、材木屋である(株)マルダイが事務局を行っています(現在、正会員198社(工務店)、賛助会員53社、事務局1社、合計252社)。建築関連の新たな法律や施策、保証とった荒波の中で、地域工務店が生き残る体制づくり、地域工務店の視点からのビジネスモデルづくりが目的です。当初は任意団体でやっていましたが、業界としての使命や行政とのやり取りの観点から、この春に一般社団法人化しました。
富士山木造住宅協会の地域材調達基準づくり
環境問題、森林、建築物等様々な現状の問題を踏まえて、地産地消や木材のトレーサビリティー(安全証明)の大切さを共有し、森林認証委員会を立ち上げ議論を継続しました。森林認証材流通の障壁はやはり認証コストと木材管理で、1つ1つの工務店のみでは対応できないため、プレカット型の仕組みとし、各工務店の手間を軽減しました。具体的にはSGEC(CoC)の取得を目指し、富士山南山麓の認証林(日本製紙)から原木を調達し、製材加工、プレカット、工務店という一連の事業者がCoCを取得するという仕組みをつくりました。
認証材の取扱で大切なのが他製品との分別管理ですが、認証林産物分別の担当者も配置しています。工務店は認証事業体として現在15社を登録、認証材を使用した住宅は、構造躯体の10%以上かつ土台・柱の60%以上の認証材使用条件にて、委員会より森林認証システムの家として認証されます。
森林認証システムの家の実践
プレカットの実務では、まず設計段階で平面図に認証材を使う部分をマークしてもらい、CAD入力後加工となりますが、加工時の混在は危険なため、認証材、その他の材の加工は、同じ部材であっても一度ラインを止めて、分けてやっています。納品後は現場でチェックし、竣工後には使用本数の実績報告を行います。最後にSGEC認証材使用建築物証明書を協会より発行します。住まい手には額付きでお渡ししますが、リビングに飾って下さる方もいます。事業者については研修会や監査も行います。
取組の実績、その他の活動
認証材の実績は、まだ始まったばかりですが、現在38棟分(約140m3)です。ブランド化にも取組み、富士山檜輝(ひのき)と命名しました。認証材の森林~伐採~製材~プレカット~住宅~植林を見学体験できる、住まい手向けのきこりツアーや認証材による学習机づくり、積み木の幼稚園への配布等の取組、その他一般に対する普及活動にも力を入れています。
他方で、国産材による長期優良住宅普及のために、国土交通省のモデル事業を用いて「みんなの家」というモデルを建設、地域工務店みんなのモデルハウスとして活用できればと思っています。協会が発足した頃は、周囲から自己満足ではないか、という冷たい視線も多かったですが、ここに来て長期優良住宅やその他国の施策の活発化もあり、やってきたことは間違いではなかったと感じでいます。
取組の詳細はこちら(富士山木造住宅協会HP)
③港区の地球温暖化対策とみなとモデル(二酸化炭素固定認証制度)の検討状況
吉野亜文氏 港区環境リサイクル支援部地球温暖化対策担当課長
港区の概要と地球温暖化対策
港区は青山、六本木等、主要な商業地域を抱える区です。気候は、新橋、赤坂、六本木といった商業地を中心に気温の高い地域(ホットスポット)が顕著に見られるようになっていて、大規模な緑地が残っている部分はクールスポットになっています。港区の土地利用は全体で容積率346%と非常に高く、事務所面積も増加傾向です。事務所建築活動もまだ活発な地域で、業務からのCO2排出増にそのまま繋がっています。人口も都心回帰の影響で増加し、家庭部門のCO2も増加しています。芝浦南地区では工場跡地へのマンション建設が相次ぎ、1990年比200%増となっています。産業はサービス業が9割です。港区の温室効果ガス排出は増加傾向で、民生家庭部門からの排出は約10%、民生業務部門からの排出が約80%です。そして、大規模事業者からの排出で港区全体の排出量の約半分を占めています。これらから大規模事業者(約200弱)への誘導策が重要となります。
大規模建築物への省エネ施策ですが、その1つに、みなとモデルによる森林整備の促進、があります。木材をたくさん使うことにより、全国の森林を元気にしていくという誘導策です。その中で、使用された木材のCO2固定量を認証していくモデルの構築を目指しています。また、みなと区民の森づくり、という施策もやっています。あきる野市で20ha程度の森林をお借りして、区の幼稚園や小学校の子供達を連れて行き(年間50件程度)、間伐等による森林整備を行うという環境教育活動を行っています。なかなか自然に触れられない都市部ですので、子供達や親の方々にも喜ばれています。
みなと森と水ネットワーク会議
都市部における低炭素社会の実現のためには、国内の森林整備と対になった森林資源の活用が有効であるという認識から、それを一緒に実証しませんかという呼びかけに対し、協力を得られた市町村と連携した自治体間の連絡会議です。木材の利用促進により森林整備が進むことは、未整備林を多く抱える自治体共通の願いであることを確認し、都市部と全国の自治体の森林資源を軸とした交流ネットワークの構築を目指しています。
2010年みなと森と水のサミットでは、みなとモデル5原則(持続可能性、合法性、透明性、共有、相互扶助)を確認しました。現在は15の参加自治体と港区の16の自治体による協議会です。そして、理念を実践に移していく取組として始まったのが、みなとモデル二酸化炭素固定認証制度です。
みなとモデル二酸化炭素固定認証制度の検討状況
この制度は、港区内の建物や施設等において利用される木材製品の炭素固定量を港区が認証し、地球温暖化対策に対する貢献を示すことによって、木材利用を推進し、協定を結んでいる自治体の森林整備に寄与することを目指すものです。港区では、区内の建物・施設等における国産材の活用を促進するための制度や手続きに必要な文書等をつくり、協定自治体では、これらに活用する国産材の供給体制の整備や森林経営の持続性・合法性の担保等を行う、という役割分担を昨年度確認し、今年度は対象となる具体的な施設のイメージづくりを進めています。
対象は港区内の全ての建物・施設としていますが、小規模なものは把握が困難なため、一定規模以上の建物・施設に対する積極的な誘導策を検討しています。港区の現在の年間着工数は500件弱です。温暖化の観点からは300㎡以上のものは省エネ法による使用エネルギーの届出、5000㎡以上では東京都の環境配慮計画書の提出、50,000㎡以上では港区の環境アセスメントが義務付けられていて、これらの中で環境対策の誘導が出来るようになっていますので、このような既存の制度にどのように森林の制度を組み込むかという観点から、検討を進めています。また港区職員の処理能力も限られるため、3,000㎡以上(50件)程度の数であれば出来るといった事務的な事項も含め検討しています。今年度中にはある程度の結論を出したいと思っています。
対象となる木材は、15の協定自治体より供給された木材で、合法性、持続性が保障されたものとなっており、この担保は各協定自治体にてやって頂くことになっていますが、市町村等によって森林施業計画の認定を受けていること、または森林認証を受けていること、森林計画書等において、伐採後の森林の確実な更新が行われることが担保されていること等、その担保の証明方法を検討しています。炭素固定量については、港区では戸建住宅がほとんど無いため、内装材やビルの什器等を見ていくことを想定しています。製造や輸送に係る排出量は今回の制度では含めないこととし、参考情報として事業者が任意で認証書に記載することは出来るように考えています。
昨年度は、本制度をカーボンオフセットや排出権取引等へ応用する検討も行いましたが、固定量の市場における取扱がまだ不明のため、現在はこの固定量は港区の認証に限り有効という方向になっています。さらに本制度でどのような建物ができたか、どのくらいの木材量があったか等、広く情報提供する予定です。
今後の検討課題
どれくらいの建物を制度対象とするのかの詰めの作業と、一番大きな課題である、15の協定自治体からの木材供給について、双方にとって効率がよいあり方を構築すること、オーナーとテナント双方が混在する建築工事に対してどの時点で炭素固定量を算出すべきか、等です。また、田町駅東口に5万㎡程の公共施設を計画しており、この中で制度の施行事業を実施する予定です。建築物の内装制限や木製品のメンテナンス計画(技術、予算)、耐久性(安全性)についても、なかなか知見が少なく現実的には大きな課題となっていますが、公共施設だけではなく民間施設にも使えるような計画を実現していきたいと思っております。
取組の詳細はこちら(港区関係HP)
【第2部】パネルディスカッション~環境時代の今、どのような木材調達基準をつくるべきか
(コーディネーター)三澤文子氏 岐阜県立森林文化アカデミー客員教授
各パネラーの方々の自己紹介を含めた活動紹介からはじめて、その後、第1部の3つの事例報告に対する意見交換を通じて、どのような木材調達基準をつくるべきか、についての議論を深めていきたいと思います。
【各パネラーの活動紹介】
(森林)速水亨氏 速水林業代表、社団法人日本林業経営者協会会長
三重の尾鷲で林業をやっています。日本で初めてFSC森林認証をとりましたが、市場からの要求が無い中でとったという、諸外国とは全く逆の状況でした。その前から世界ではISOなど森林や木材に関する第三者認証の議論が行われていましたが、日本では全くありませんでした。意識の高い一部の活動は別として、一般的には今の日本も全く状況は変わっていません。木材利用に対する倫理観の低さは世界一です。これをどう変えていくのかが、木材調達において最も重要な課題です。
(木材)榎本崇秀氏 株式会社山長商店常務取締役
和歌山の田辺で仕事をしていますが、約5千ha(山手線の内側とほぼ同等)の森林を所有し、そこから出てくる木材及び近隣の山の木材の製材から加工まで一貫してやっています。国産材の衰退は木材の「品質」という問題も大きいと思います。環境的な側面から国産材が注目されていますが、品質をどう担保するのかについて長く取組んできました。環境貢献の「見える化」と同じく、品質の「見える化」として、産地表示、合法証明、国内唯一の公的な性能担保であるJAS(含水、強度、寸法、シリアルナンバー)を表示しています。木材の品質の考え方は様々ですが、個人的には供給者、施工者、施主という3者の同意が取れるものであればよいと思っています。
(木材)藤原敬氏 社団法人全国木材組合連合会常務理事
全木連で仕事をしておりますが、木材の環境指標について木材業界全体としては、必ずしも賛同する状況にはなっていません。しかし、地球環境保全という枠組みにおける、様々な木材振興策が打ち出される中では、品質の担保や価格も勿論のこと、環境や合法性証明等の側面についても積極的に取組み、一般の方々の理解や信頼を得る必要があります。そしてこれらをいかに低コストで効率的に行えるか、多くの方々に知ってもらい問題点をフィードバックするという透明性をもった仕組みにしていけるか、ということが重要だと思います。
(建築)藤本昌也氏 社団法人日本建築士会連合会会長
建築家として当初10年間は集合住宅やまちづくりに携わっていました。10年目に木造住宅をつくる機会があり、当時の建築教育は木造住宅など教えていませんでしたので、田中棟梁に習い、その時に、日本の森林を考えて安い外材ではなく国産材を使うべきだと言われ、民家型構法というシステムをつくりました。その後の建設省の提案協議(家づくり85)で全建連と組みこの構法を提案し、また同時期に林野庁からも国産材住宅の提案を依頼され、モデルをつくりました。ちょうど25年前のことですが、それ以来国産材住宅に取組んでいます。現在は日本建築士会連合会として、全建連との連携により、地域の国産材住宅のあり方や仕組み作り等について取組んでいます。ウッドマイルズにも関わり、木材の環境貢献も含め、木の建築物は今後どうあるべきかを、建築家として考えて行きたいと思っています。
(環境)岡崎時春氏 国際環境NGO FoE Japan 副代表理事
環境NGOをやっておりますが、キャリアは12年です。1999年に木材貿易の自由化をテーマとしたWTOの第1回目の会合があり、木材貿易反対という環境NGOの立場で参加したつもりでしたが、林野庁、全木連、全森連から一緒に戦おうと呼びかけられ、この時点から、木を切ってはいけないということから脱して、国産材を使うという活動をしています。当初は木を伐るな、輸入するな、というネガティブキャンペーンでしたが、現在はフェアウッドという良い木をもっと使おうという団体になっています。
1998年以前は製造業者として、鉄やセメント・アルミをつくるプラントを世界中に売りまわっていました。需要もあり生産効率性に優れた、安くて品質の良い日本の技術は世界中に売れましたが、現在は大量の製造エネルギーを使うことから、環境コストを内部化せざるを得なくなり、価格上昇に繋がっています。一方で木材は環境コストを見ることが出来ないため安いままです。政権交代し、森林・林業再生プランで狙っているものは、林業・木材産業の生産性を上げ、その中で環境コストを内部化しようということです。商品が売れるのは、品質、安定供給、価格の3つが必要ですが、木材も鉄やセメントに匹敵するレベルに持っていこうということで、その上で環境指標は+αのものになり得ると、期待しています。今、天竜で林業を始めましたが、林業が儲かる方向へもって行きたいと思っています。
(環境)熊崎実氏 一般社団法人日本木質ペレット協会会長
岐阜県立森林文化アカデミー時代に、ウッドマイルズ研究会の発足に関わり初代の会長を引き受けました。今は、ペレット生産者やボイラー、ストーブ製造者が60社ほど集まったペレット協会の会長をやっています。バイオマスは色々な政策も動き出し、排出権取引のクレジット認証の審議会もやっています。山からチップを持ってきて、重油ボーラーを木質ボイラーに代替することで、売買できるCO2クレジットが生まれる、また山の未利用材を燃料として作った電気を、グリーンエネルギーとして売買する仕組みも出来そうです。
このような政策が動き出すと、山の低質材の販路が急激に拡大すると思います。また建築用材も合板や集成材など、国産材化が急激に進んでいて、山から取る木材が大量になっています。ちょっと心配なのは、国内の山が全て森林認証のような山であれば問題ありませんが、そうでない山が多く、大企業が皆伐して再造林しない例も目に付き、木材の調達基準には、持続可能な森林経営の担保が必要ですが、日本の私有林の多くはそういう状態ではなく、木材の大量供給によって森林が荒れてしまう可能性があることです。重要なのは木材需要が拡大していく中で、どのような供給体制をつくるべきか、今の日本の森林林業を動かしている仕組みをどう変えていくかであり、今の新しい再生プランの中で検討されていくことだと思います。
【第1部の3つの事例を含めた意見交換】
(速水氏)
FoEの木材調達基準はすばらしいので、他に色々と基準をつくるよりは、この基準をどんどんブラッシュアップして使って行くのが正しいと思います。森林認証もそうですが、日本では色々な基準をつくりたがる人が多いです。たくさん出てきてどれを使ったらいいか分からなくなってしまうので、ウッドマイルズもそうですが、FoEの基準に対して色々と提案や意見をして組み込んでいく形が良いと思います。我々は小さな業界ですから皆で力を合わせて1つの良い仕組みを作っていくことがとても大切だと強く感じています。また、様々な業界団体のつくる基準は所詮業界団体証明であり、環境NGOのような第三者証明になり得ません。日本の合法性証明も業界団体証明なので、国際的には通用しません。是非、国際環境NGOの人達が汗を流してつくっている基準を輝かせる必要があります。
富士山木造住宅協会の活動は、本当に地域で汗をかく人が居たから出来たものだと思います。色々な仕掛けを考え出すと、いびつな山への返し方になってしまうので、認証を用いてスムースに山に返す仕組みというのが、一番のポイントです。
港区の仕組みは以前から興味を持っています。地域と都市をつなげる活動はとてもおもしろいと思っていますが、地域を限定するところに少し疑問を持っています。逆に認証材に絞り地域は限定しない、その他の仕組みを使って、地域で個別に頑張っている人達とも連携が取れると良いと思います。
(吉野氏)
木材を使うことではなく、自治体間が協力するというところから始まっている話なので、現状では自治体限定となっていますが、広げていかないと、木材の量、質ともに確保できないので、今後の課題だと思っています。
(三澤氏)
ウッドマイルズ単独の指標はいらない、という意見もありましたが。
(速水氏)
日本は小さな国ですが、様々な意見の人達が、様々な仕組みを作っています。これは大きな業界であればいいですが、森林・木材のような小さな業界にとってはとても不利です。森林認証も国内に2つあるのは、日本の森林にとっても不利です。流通の方々も2つの認証を意識しなければなりません。ウッドマイルズがいらない訳ではなく、ウッドマイルズはしっかりブラッシュアップして、そしてFoEの仕組みに組み込み、連携・協力して高みに至ることが重要です。日本は業界絡みの指標を使いたがりますが、世界から見れば環境NGOの指標しか信頼されません。ここの意識をどう代えるかが、日本の林業を救うポイントだと思います。
(藤原氏)
ウッドマイルズ研究会で何か新しい指標や仕組みを作ろう、ということではなく、既往の様々な指標を整理して、建築関係者に分かり易く伝えたい、というのが今年度予定している「木材調達チェックブック」つくりです。このフォーラムも一線で活躍されている関係者を集めて知識を深めるという主旨で開催しています。
(榎本氏)
中澤さんの、供給側と使用側がマッチングするための厳格な仕組みづくり、遠藤さんの、環境指標を用いた地産地消のサプライチェーンづくり、吉野さんの、全国という範囲の広いサプライチェーン、と皆違った形の取組の話が聞けて、とてもよかったです。
国産材と地域材、また地域材は流域材、県産材とも言われていますが、日本はどうしても資源や人口の偏在があります。例えば都市部だけで小さな循環が成立すると、過疎地は救われません。港区の地域と連携する取組は、今後の過疎地の生き残りとして、とてもよいモデルになると思います。また、中澤さん達の取組は、資金や人員が潤沢な大手メーカーの事例ですが、木造住宅のもう1つの担い手である地域密着型の工務店に対しては、やはりハードルが高いと感じますが、どのように感じていますか?
(中澤氏)
地域工務店では、既に認証材の産直住宅や、究極的なフェアウッドの取組をやっているところもありますが、全てプレカットに任せてしまっているところも多く、ここに対してどのように展開すべきか、まだ戦略は持てていません。当面は、大手ハウスメーカーがまずはリードしてモデルをつくり、そこからの消費者や業界への発信力に期待しています。何かいい知恵があったら教えてください。
(榎本氏)
大手メーカーの取組から、地域工務店にも火が付きやっていくというのもいいですが、やはり心情的には地域の工務店から頑張って欲しい。是非そこへの取組も協力してやっていきたいです。
(藤原氏)
合法性証明等については地方自治体の役割が大きいですが、自治体だけではやりきれないという問題もあります。森林管理について地方の核となる人達がよりレベルアップしていける仕組みが必要ですが、港区のような取組はとても重要だと思います。より幅広い自治体へ働きかけをして欲しいです。遠藤さん達の活動は、遠藤さんが居たから出来たというところも大きいと思いますが、その苦労や今後の活動の拡大についてはどうですか?
(遠藤氏)
協会の中でも認証の仕組みに入っている工務店はごく僅かで、今後どうやって広げていくかはまだ検討中ですが、1つ言えるのは、いくら川上が頑張っても、最終的には施主から欲しいと言ってもらえないと使えないということです。地域材利用のメリットをもっと施主に皆でアピールすることが重要です。今は長期優良住宅の補助があるから国産材を使っている人が多いと思いますが、この補助が終ってしまったら、引き続き使ってくれる人は少ないと思い、どうなってしまうか心配しています。
(藤本氏)
環境時代の今は、様々な取組がここまで進んでいるのかと感心しました。フェアウッドはとても良いコンセプトだと思いますし、一方のウッドマイルズはある意味、地域をテーマにしていますが、今後は木材だけではなく、地域経済、地域のあり方等も検討が必要だと思います。遠藤さんの話にも出てきた、木材の品質も重要です。川下の建築関係者からすると、このような様々な指標をもう少しまとめて、どれくらいやればいいというものを知りたいです。
表示制度も必要ですが、速水さんと同じで、建築界も、民間団体は皆全て自分のところで完結しようとします。様々な団体が連携するということが出来ていません。これは官僚の問題というより、日本人の体質という全体的な問題だと思います。NGOの活動も地域発で世界に広がっている活動だと思いますし、木材の運動もそうあるべきです。遠藤さん達の活動も、それを全建連という組織に対してどう上げていくかが重要で、鍵は人だとも思います。本日のフォーラムでも、参加者がこれら先進事例をどう自分達の活動に取り込むかがポイントだと思います。
(岡崎氏)
遠藤さんは先ほど補助金の話をしていましたが、港区も含め、活動の持続可能性という点について、問題提起したいと思います。補助金が無くなれば続かない、つまり普及は難しいということです。また港区の活動は補助金が入っているのか、入っていなければ、安定供給、コストという市場の原則の観点から、自治体が関与しなくなった時、持続することは難しいと思います。フェアウッドの積水ハウスの事例は、補助金は入っていません。品質、安定供給、コストという3つの目処がほぼ付いた段階で、環境をのせたという形ですから、現状の木材価格や貿易状態が大きく変化しない限り、持続可能だと理解しています。我が国の森林・林業再生プランでも、補助金無しで持続可能な仕組みを作って欲しいと思っています。
(吉野氏)
これらは田町の施設建設における木材調達で、まさに直面している問題です。木材の品質については、バラツキも多く、設計者がどのように指示をすれば良いか分からない状態です。安定供給についてはまだ1件の施設建設ですので量は確保できますが、価格については区の施設であれば、区の予算が付けば購入できますが、民間施設の場合どれくらい価格が変わるのか等、情報集めが必要な状態です。補助金は入っていない区の事業ですので、民間の方々の誘導ができる制度を区がいかにつくるか、というところでやっています。
(熊崎氏)
炭素固定量の排出権取引は難しいという話がありましたが、クレジット認証をやっている中では、山で吸収する炭素、バイオマスエネルギー代替時の炭素、建築物で固定される炭素、等が考えられていて、炭素固定については、アメリカの建築界では大きな問題になっていて詳しい調査もされ、炭素取引にのせるべきだという主張があります。これについては港区でも議論されたかと思いますが、どういう結論でクレジットは検討しないということになったのでしょうか?
(吉野氏)
木材の炭素固定について、国境等、カウントできる範囲がどうなっているのかを調査したこともありますが、今の港区で、炭素取引にのせることを目指すべきかどうかを決める議論が出来るのかについても議論し、また市場にのせる場合は第三者認証も必要となりますが、コストや体力も含め、自治体及び参画事業者にとっては、まだ難しいという現状、さらには炭素固定市場が国際的にも国内でも、まだ煮詰まっていないということから、クレジット化は目指さないという方向になっています。
(熊崎氏)
日本の木材の調達量は今後どんどん大きくなると思いますが、コストダウンも必要なので、大きな製材工場や大規模な品質管理が必要になります。ただ全国に小規模の森林所有者が多く居る中で、このまま進んでいいのかどうか。ドイツの森林組合では森林官が指導や調査など詳細に色々なことをやっていて、木材を小口で売ろうとすると2~3割りは叩かれてしまうので、森林官が指導した材を一生懸命集めています。日本でも今後は現場の指導者が小口の木材をまとめて、大口市場と交渉できるという仕組みが必要だと思います。
(藤本氏)
今たくさんの補助金が投入されていますが、やはり切れたらそれで終りという感じもします。住宅やまちづくりも、公的資金が無いと出来ないこともたくさんありますが、それは下の世代にストックとしてしっかり残るという前提で税金を投入しているわけです。まちづくりに合わない長期優良住宅を個々につくっても残るはずがないので、そこまで含めた総合的な施策でないと困ると思っています。それから組合ですが、日本の組合は、参加する組合員が力を出し合うという、本来の「共」になっていません。専従者のみが群がり組合員は疲弊していくという失敗が多いです。今、新しい「共」をどのようにつくるのか、試されている時期だと思います。
(三澤氏)
時間が無くなってしまいました。各々の方々に本日のまとめを頂く時間がございませんが、今日の課題を皆さんの地域に持ち帰って頂き、活動の刺激にして頂けたら幸いです。また本日の会場である木材会館のような木材を利用したすばらしい施設が、港区をはじめ全国に出来れば嬉しく思います。
- 作品名
- フォーラム2010
- 登録日時
- 2010/07/09(金) 16:04
- 分類
- 2010年度