ウッドマイルズフォーラム2008in 東京~木材の環境指標の連携・統合を目指して
日時/2008年7月4日(金)13:30~17:45
場所/東京ビッグサイト(国際展示場)102会議室
主催/ウッドマイルズ研究会
後援/(社)日本建築士会連合、(社)全国木材組合連合会、(独法)環境再生保全機構、(財)日本住宅・木材技術センター、日本木質ペレット協会、自立循環型住宅研究会、京都府地球温暖化防止活動推進センター、京都府産木材認証制度運営協議会、(財)下川町ふるさと開発振興公社、「生地の家」職人‘ネットワーク、くまもと森林認証ネットワーク、NPO法人WOOD AC
【第1部 基調講演:環境時代の今、木材にできること、やるべきこと】
『木材供給者の視点から』
熊崎実/日本木質ペレット協会会長(ウッドマイルズ研究会顧問)
『森林と木材消費者を繋ぐ「ウッドマイルズ」』
藤原敬/(社)全国木材組合連合会常務理事(ウッドマイルズ研究会代表運営委員)
【第2部 パネルディスカッション:各地の実践活動から木材の環境指標の連携・統合の可能性を探る】
(コーディネーター)三澤文子/岐阜県立森林文化アカデミー教授
(パネラー)
『京都府の活動』 白石秀知/京都府南丹広域振興局農林商工部農林整備室
『熊本県・宮崎県の活動』 松下修/松下生活研究所代表
『北海道下川町の活動』 相馬秀二/(財)下川町ふるさと開発振興公社クラスター推進部次長
『自立循環型住宅研究会の活動』 野池政宏/住まいと環境社代表・自立循環型住宅研究会代表
様々な分野で温室効果ガス削減対策が広がる中、木材や木造住宅の分野においても、持続可能な森林経営に対する森林認証をはじめ、木材輸送に着目したウッドマイルズ、省エネ建築物の格付けを行うCASBEEなど、多方面で環境指標の明示化が始まっていますが、各々の環境指標が独立してある今、全ての指標を実務の中で活用するには、膨大かつ複雑であり、現実的には活用され難い状況です。
木造住宅のつくり手や住まい手は、分かりやすく使いやすい指標を求めており、木材や木造住宅の環境指標の連携・統合が不可欠です。ウッドマイルズフォーラム2008in東京は、その第一歩として、様々な環境指標の現状を認知すると共に、各々の関係者との情報交換を行い、連携・統合への機運を高めるため開催されました。
フォーラムには研究会関係者をはじめ、自治体・森林木材業・建築業・その他一般企業など、総勢62名が集まりました。以下にフォーラムの概要を報告します。
『開会挨拶』
『2003年の研究会発足以来、山側の代表として会長を務めてきたが、今後のウッドマイルズは、より町側との連携を強化した運動とするべきである。200年住宅では町と山との連携が不可欠であり、カーボンフットプリントという指標も出てきた。研究会設立趣意書にもウッドマイルズはライフサイクルエネルギーの出発点とあり、研究会として今後どのような方向に進むべきか議論する良い時期である。今年度から新たに就任頂く藤本氏(日本建築士会連合会会長)のもと、是非新しい方向に向かって進んで欲しい(熊崎前会長)』
【第1部 基調講演:環境時代の今、木材にできること、やるべきこと】
『木材供給者の視点から』
熊崎実/日本木質ペレット協会会長(ウッドマイルズ研究会顧問)
1.地域の木材を使うことの意義
地域で育った木をその地域で使うことが生物的にも適している。地域の木を使うことは地域の経済活性に繋がるものだが、日本は林業の低迷が地域経済の疲弊に繋がってしまっている。地域材は木材の輸送エネルギーも少なくて済む。しかし、地域材といっても、品質、価格共に使用者に使いやすい材を供給することを忘れてはいけない。
2.日本の林業はなぜ国際競争力を失ったか
ドイツやオーストリアでは着実に丸太生産量が増え、燃料用も増加している。両国は木材輸出も行い国際競争の中で日本をはるかに追い越している。林道・作業道の未整備や、製材工場の規模の未集約化等が原因である。ドイツでは、注文品・量産品各々に合理的なサプライチェーンが出来ているが、日本は従来の複雑・多段階の流通形態であり、最近は日本でも大型工場が出来ているがサプライチェーンの整備が進んでいない。日本の林業は見えがかり材(高級材)へ特化してきたため、見えがくれ材やチップ等のサプライチェーンが出来なかった。そして、大量の並材を必要とする大手住宅メーカーへの木材供給は全て輸入材となった。しかし現在は輸入材が入り難くなり、国産材で賄わなければならない時期に来ており、これからはチップ、燃料利用も含めた、しっかりとしたカスケード利用(ウッドコンビナート)の構築が必要である。
3.地球温暖化防止と森林・林業・林産業の役割
森林は二酸化炭素を吸収するが、成長期しか吸収しないため定期的な木材利用が必要。そして木材をたくさん使い炭素を固定し、加工・輸送エネルギーも削減。最後には残廃材のエネルギー利用による化石燃料の削減、という多様な一連の流れが求められる。戸建て住宅では、製造時炭素放出量、炭素固定量共に、木造が極めて有利であるとされているが、この数値を皆が合意するものにしていくかが課題でもある。アメリカのCORRIM(Consortium for Research on Renewable Industrial Materials)では住宅LCAが調査され、GWPI(温暖化ポテンシャル指数:Global Warming Potential Indexes)として木造住宅の優位性が明示されている。また伐期の違いによる炭素貯留量の違いも研究されている。森林の役割は多面的であり、森林の炭素貯留などを無視し、木材の燃料利用等だけで進んでいったらたいへんなことになる。森林の温暖化防止策は総合的な判断が求められる。
近頃、日本の森林教育はこれで良いのかと心配している。森林と生活に関する世論調査(内閣府)の平成15年、19年の調査結果では、森林への期待としてトップがCO2吸収であり、木材生産との答えが極めて少ない。日本の森林は既に成長し、ほって置いてもCO2はほとんど吸収しない。森林育成と木材生産との両立があってはじめて温暖化防止となり得るのに、一般世論は森林の木材生産を全く期待していないのである。木材や燃料の輸入が難しくなってきた今、森林~木材といった多面的な効果をしっかりと教育し、燃料や木材その他副産物をうまく利用していくという、私が子供の頃の多面的な森林のように、復活させなければならない。
『森林と木材消費者を繋ぐ「ウッドマイルズ」』
藤原敬/(社)全国木材組合連合会常務理事(ウッドマイルズ研究会代表運営委員)
1.ウッドマイルズとその背景
ウッドマイルズは木材の輸送距離を示すものであるが、輸送過程のCO2排出という物理的距離と、生産者が消費者に見えるという心理的距離の2つの側面がある。研究会設立時の問題提起は、製造エネルギーの少ないエコマテリアルな木材に対し、遠方輸入材に頼る日本の膨大なウッドマイレージから見える木材輸送エネルギーの浪費、および環境時代に受け入れられる木材となるために、生産者だけではなく消費者から信頼される木材となることが不可欠である、ということであり、これらの解決の鍵が、木材の生産者と消費者の距離(ウッドマイルズ)であった。
(※ウッドマイルズの背景や経緯、指標の詳細については、当会HPを参照下さい)
2.ウッドマイルズ研究会の5年間の活動
フードマイルズをヒントにはじめたウッドマイルズ研究会は発足後6年目を迎え、ツールの開発やセミナー活動、ウッドマイルズレポートの発行や調査研究などを行ってきた。現在会員は約100名、さらに多くの方々の賛同を得るべく活動を継続している。ウッドマイルズには大きく分けて、建築物の環境評価(ウッドマイルズレポート)と地域材推進への利用、という2つのニーズがある。各自治体では自県産材の推進が行われており、京都府では自治体の木材認証制度にウッドマイルズが組み込まれた。ただ、各地の公的な動きがどれだけ民間に波及しているかを考えると、県産材というメッセージだけでは限界があり、如何に環境負荷の軽減という点を含められるかが重要である。
3.地球環境時代のウッドマイルズの可能性
ウッドマイルズは建築全体のLCAの中の資材輸送という部分に過ぎないが、ある程度のインパクトがあった理由は、単純明快な指標であったことや木材自体が注目されつつあることがあげられる。次週は洞爺湖サミットが開かれるが、福田ビジョンにおいても、排出CO2を2050年までに現状の60~80%削減とあり、具体的な政策の中にCO2排出量の見える化がある。ウッドマイルズは木材輸送部分の見える化を行ってきた訳だが、これからはより幅広く他の部分との連携を取っていく活動を展開したいと思っている。福田ビジョンの見える化の背景には、消費者が的確な選択を行うための情報提供の必要性があり、カーボンフットプリントやフードマイレージ制度が施行されている。木材の場合は、まずはCO2の排出と固定の見える化を目指すべきであり、木材の炭素固定量・製造時CO2・ウッドマイレージCO2を合算した、木材二酸化炭素固定指数(Wood Carbon Dioxide Fixation Index)が提案できると個人的には考えている。
【第2部 パネルディスカッション
:各地の実践活動から木材の環境指標の連携・統合の可能性を探る】
(コーディネーター)三澤文子/岐阜県立森林文化アカデミー教授
後半のパネルディスカッションは、各地で活動する4名のパネラーによる活動報告から始まりました。
『京都府の活動~ウッドマイレージCO2認証制度の展開』
白石秀知/京都府南丹広域振興局農林商工部農林整備室
全国同様、従来の林業政策では森林が守れないという状況が続いている中、京都府では、モデルフォレスト運動、京都・森と住まい百年の会、という2つの府民運動と、ウッドマイレージCO2認証制度という制度を絡み合わせ、森林資源の循環利用と整備を進めている。モデルフォレスト運動はカナダで提唱された、森林を基盤とし多様な人の輪を活用して森を守る運動で、地域の人や企業や大学との連携により府内14箇所で森づくり活動が行われている。また木を使って森を守る運動を、京都・森と住まい百年の会が行っており、このような運動を繋ぐものとして、ウッドマイレージCO2認証制度がある。環境指標、第3者認証、ユーザー登録という3つの特徴をもち、展開している。
認証木材使用住宅に対する交付金支援事業(京都の木の家づくり支援事業)の実績は、平成18,19年の2年で123戸、認証木材使用量2,012m3、214トンCO2の削減効果、となっている。ただ、小規模工務店の制度利用がほとんどである。事業実施の効果は、山と施工者の距離の短縮、府内産材に自信を持てる、価格メリットによる注文の増加や、地域材住宅へ取組業者の増加があげられ、民間金融機関によるエコウッド住宅ローン金利優遇サービスや、「ストップ温暖化大作戦 CO2削減一村一品プロジェクト(H19環境省)」で優勝した京都北桑田高校の活動等へも波及している。
しかし認証木材使用量は府内全体の供給量のわずか6%に過ぎない、府内の全ての人工林が成熟期に入った今、府内木材の安定供給化が欠かせない。施主に直接交付金が行かない制度の再検討や事務手続きの簡素化も課題である。また、市民や消費者との共感と連携も不可欠であり、京都・森と住まい百年の会では、木のものがたりという絵本の発行も行っている。
『熊本県・宮崎県の活動~森林認証木材と顔の見える木材での家づくり』
松下修/松下生活研究所代表
宮崎県諸塚村や熊本県小国町で、木材の流通認証等に取組んでいる。諸塚村では産直住宅を提案し価格差の勝負ではなく顧客の評価を創出できるような供給原則を理念とし活動している。実績は年間約30棟で、森林認証取得の広がりと共に増加している。具体的にFSC/COC認証にて動いているのは熊本の「生地の家」職人‘ネットワークによるものでこちらは年間18棟である。また小国町ではくまもと森林認証住宅ネットワーク「小国杉の家」を設立し、SGEC/COC認証による家づくりを行っている。
しかし木材価格を見ると、供給段階の価格は変わらず原木価格のみが下がり続け、山ではたいへん苦しい状況が続いている。九州の人工林の3割は管理放棄林となっている。そんな中で山の生活を守り、地域材住宅の安定供給をいかにつくっていくかが大きな課題である。現在国は新生産システムと顔の見える木材供給という2つの方向性を展開しているが、諸塚村では顔の見える木材供給の方向性で進んでいる。現実の木材の選択状況を見てみると、国産木材で建てたいと言うが日本の住宅は世界の木材展になってしまっている。その要因は生産地情報が不明瞭な流通にあり、それを明確に証明するため流通認証木材に取組んでいる。
また、顔の見える木材で家を建てた施主の反応を見るため、諸塚村産直住宅でアンケートを行った。産直住宅にした理由では取組に賛同したという答えが最も多かった。また、地域の住宅と施主の関係を分析すると、産直住宅は高所得者層に支持されており、購入の際に重視する要素としては、木材、健康、という点が多かった。家づくりの提案の仕方1つで施主の価値観は変わってくるものである。このような認証木材の展開の中で昨年からウッドマイルズを取り入れているが、CO2削減量を明示するウッドマイルズはとても消費者に分かりやすい。今後はこのような環境指標を山側と町側の人々を繋ぎ得る総合的なものとして活用していくべきである。
『北海道下川町の活動~地元の木で家を建てる』
相馬秀二/(財)下川町ふるさと開発振興公社クラスター推進部次長
下川町は北海道の北に位置する人口約4000人の町で、面積の9割が森林である。町ではFSC森林認証を取得し、伐ったら植えることを原則とした循環型森林経営を基本方針としている。環境指標の取組は、ウッドマイルズ、CASBEE、に取組んでおり、今後はさらに、「下川・建築物環境目標水準」の作成を予定している。
ウッドマイルズは意識の高い工務店の住宅の環境PRとして活用している。あるモデルハウスの事例では、地域材利用によりウッドマイレージCO2が80%削減され、削減されたCO2の量をガソリンや灯油消費量に換算してアピールしている。一般消費者に対してはこのように身近なものに換算することが最も受け入れられやすい。
CASBEEについては、昨年できた「CASBEE-すまい」を使用して、町内で初めて下川のFSC材で建てた住宅を評価している。評価結果は標準より良いAランクだが、ライフサイクルCO2は一般レベルの89%で少し良いという結果である。詳細な評価項目毎の得点も出るが、CASBEEは全国一律の評価指標なので、山間地下川では少し使い難い指標でもある。
現在は下川にふさわしい建築物の環境水準目標を整備すべく、「下川・建築物環境目標水準」づくりを進めている。下川だけで通用する基準を作っても意味がなく、全国の他地域との比較ができるようにするためのものである。ウッドマイルズやCASBEEに、FSC森林認証や循環型森林経営、北海道の北の木の家制度などを加え、森林づくりや地域住宅産業の優位性・競争力の強化に繋げたいと考えている。
その他にも、北海道の進める地材地消への取組である「下川生まれ、下川育ちの家づくり」や「下川町地域材活用住宅建築促進事業(8万円/m3補助、上限280万円)」、森林の利活用の取組である「下川町森林づくり寄付条例の策定」、「FSC森林認証」、「木質バイオマスエネルギー」、「しもかわ森林療法協議会」などの取組を行っている。
ウッドマイルズ、CASBEEなど、どれが良いということではなく、山側だけ、町側だけの環境指標であることが問題で、特に山間地域では、双方が連携できる環境指標が求められる。
『自立循環型住宅研究会の活動』
野池政宏/住まいと環境社代表・自立循環型住宅研究会代表
環境、住宅性能(特に温熱環境)、普及(地域の住宅の作り手がいかにアピールするか、売れるか)という3つのキーワードのもと活動している。国産材・地域材を使っている工務店は、良心や使命感を持って使用しているのも確かだが、それ以上に工務店の差別化材料になっている。国産材・地域材を使った家が売れなければ工務店はどうしようもない。設計者はどちらかと言うと理念や運動論的に地域材を使用しているが、工務店は売れるかという非常にリアルな状況で使用している。建築を取巻く状況はここ数年とても厳しい。新築着工戸数の減少、底値安定、法改正による作業量・責任の増大、一方消費者には意識の向上や情報量の拡大などが見られ、やるべきことが膨大にある。数年前に近くの山の木で家をつくる運動が起こり、差別化の材料として国産材・地域材が使われてきたが、今では皆国産材・地域材なので、それだけでは認めてくれない。まず総合力を付けないと話しにならない。さらにはやはりキャッチフレーズとなる1つか2つの得意技を持つことが重要である。その1つとなるのが自立循環型住宅であり、低炭素社会、省エネへの対応をもって地域でPRしたいという人達の集まりが自立循環型住宅研究会である。
自立循環型住宅とは、現在使える技術で、快適性や利便性を向上させながら、2000年頃の平均的な住宅に比べ、最大で50%のエネルギー消費量が削減できる住宅の設計法がまとめられたものである。省エネについて今までは断熱・高気密のみで語られることが多かったが、これは自然エネルギー利用や省エネ設備利用等も含んでいる。様々な省エネ手法のベストミクスを探れること、及び簡便に省エネ試算ができる(見える)こと、が大きな特徴となっている。また、CASBEEの温熱・省エネに関する項目のほとんどに、こちらの内容が使われており、この設計手法を全国へ普及したいと思っている。
自立循環型住宅研究会には、まじめに省エネをやりたいという人達が集まり、とても盛り上がっている。ただ一方でCASBEEが広がっており、幅広い環境評価ツールであるが故に、最優先課題である省エネ、CO2排出削減の意識や評価が薄まる可能性が高く(CASBEEでCO2削減に関わる評価は全体の1/6程度しかない)、とても危惧している。国産材・地域材を使って良い家を建てている供給者が地域で評価されるためには、CASBEEではなく、自立循環型だけでもなく、という感じでまとまった良いツールが無い。昨年あたりから特に、地域のつくり手達から、もっとまとまった、分かりやすい、地域で評価されるツール・パンフレットを作って欲しいという声が急増している。
結論としては、まず環境対応として、「自立循環型住宅による省エネ」+「ウッドマイレージCO2と森林認証による地域材活用」を、まとめてPRするツール、そして、良い家(設計力、技術力、性能、維持管理)をつくっていることをPRするためのツール、という2つが必要だと思っている。
『ディスカッション』
住宅の木造率は依然として高い。最近は地域材を使っている工務店はとても忙しく、使ってない工務店は仕事が無い、という状況であるとも聞き、野池氏の言われる地域材だけでは駄目だ、というのはかなり先駆的な工務店の中での話しだと感じる。ただやはりこの先は野池氏の問題提起の通り、今回のフォーラムの主旨でもある環境指標の統合・連携が欠かせない。パネラーからもCASBEE、ウッドマイルズ、森林認証への取組が報告されたが、まずは会場からの質問や意見を受けたい(三澤)。
ウッドマイレージCO2算出について2点ほど質問したい。1つは木材の輸送過程で帰り便を使用した場合、通常の往復の輸送エネルギーが半減されるので、ウッドマイレージCO2も半減して良いのではないかということ、もう1つは、現在私が使用している人工乾燥材は1m3人工乾燥するのに100リットルの重油を使っているが、これを天然乾燥材にした場合、輸送過程より大きなCO2削減ができ、この分もウッドマイレージCO2に組み込めないのかということを聞きたい(会場)。
乾燥、つまり製造エネルギーと輸送エネルギーの統合はとても重要である。現在、経済産業省でも、カーボンフットプリントという指標をつくろうということになったが、各商品に消費エネルギーを表示するもので、この流れはとても重要なので、ウッドマイルズ研究会でもこれらの流れに応じて、統合した表示に取組んでいきたい(藤原)。
片道空、帰り便利用といった詳細な輸送エネルギーの反映は現在行っていないが、状況によっては今後反映する可能性もある。ただ現在は往復のトラック移動も片道分として算出しているので、帰り便が半減されるのではなく、片道空便の方が倍となる方が正確であると言える(事務局)。
木材だけではなく家電機器や資材の調達のグリーン化を促進するガイドラインを、グリーン購入ネットワークという組織で作っているが、環境負荷の見える化にもとづく経済産業省のカーボンフットプリント表示の動きを受け、環境省がエコファースト制度をつくった。これは業種毎にトップランナーをつくるという話で大手ハウスメーカーも手を上げた。ネットワークではハウスメーカーも含め、多くの商品へのカーボンフットプリントの検討やコンサルを始めている。ウッドマイルズは今まで木材の地産地消という事に対して大きな役割を果たしてきたと思うが、大手ハウスメーカーへはまだまだ浸透していない。国産材、輸入材というレベルでウッドマイルズを浸透させるためには、大手メーカーへの普及は不可欠で、ウッドマイルズにカーボンフットプリントの概念を加えれば、より広い普及が出来る。地産地消とは少し異なるかもしれないが、今後の検討課題に加えて欲しい(会場)。
やはり世の中の流れである。先日見たドリンクにもカーボンフットプリントが表示されていた。住宅産業は特に多量のCO2を排出しており、現実的にカーボンフットプリントを行う必要がある段階である。野池氏が言われるように、住宅1件を建てた時のカーボンフットプリントと、どのくらい省エネかという性能に関するカーボンフットプリントがあり、それらを今後どのように表示していくのかが課題だと思う。ドイツのザルツブルグ州の例では、建物の温熱省エネ手法をエコポイント化し、その得点が不動産価値に反映している。日本もいずれこのような感じになると思うが、野池氏の意見を聞きたい(熊崎)。
スイスでも行われている、住宅1㎡あたりに何ワット使われているかを表示し、ポイントによって補助金等の優遇を与える政策だが、これは既に日本でも出来る状態にある。その答えが全て自立循環型住宅にある。現在の自立循環型住宅はⅣ(温暖)地域かつ4人家族を対象にしたものであるが、来年くらいから多人数や他地域に対応したデータが続々と出てくるので、全国的に試算可能になる。国がそのような動きをすれば直ぐにでも出来る状態である。ただ、残念なのはそこに少しねじれがあり、住宅業界はCASBEEで動いている。CASBEEで動くとこちらに行かない(野池)。
CO2削減という方向性がはっきりとしたら、CASBEEとは別の指標が出来てもいいのではないか(熊崎)。
私もそちらの方が正しいと思うし、小さなところで大きな声を上げて呼びかけ続けているが、残念ながら今の状況ではCASBEEで動いていくとしか思えない。CASBEEは幅広く良く出来た指標で全否定はしないが、やはり地域材住宅にとってはCO2を主力とした戦略はチャンスなので、自立循環型の方でやりましょう!と熊崎さん始め、会場の方々にも色々なところで呼びかけて欲しい。自立循環型については説明不足かもしれないのでリクエストがあれば詳しく話す機会も持ちたい。
また、先ほどの天然乾燥、人工乾燥の話だが、具体的に正確なエネルギー消費分析がなされていないと思う。乾燥方法も多様であり、より多くのデータや研究があって始めて使える数値が見出せるし、それまではなかなか使い難いものになる。既往データの調査などもウッドマイルズ研究会や関係者で行えると良いと思う(野池)。
住宅を作るCO2も大事だが、その木が生長過程で吸収するCO2もとても大事である。また様々な住宅資材がある中で、木材は天然循環資源である。製造過程のフットプリントだけではなく、もっと前のマテリアルという段階の評価が地球環境にとって最も大切だと思うので、そこも組み込めると良いと思う(会場)。
木材の生まれる森林については、本日のパネラー報告でも熊本、北海道の森林認証への取組があった。京都はそのような取組はどうか(三澤)。
森林認証は今後の課題である。ウッドマイルズから始めたが、決してそれで終りとは思っていない。持続可能な森林がなければウッドマイルズをやっても環境にやさしいとは言えない。木は再生可能でCO2も吸収しているので、カーボンフットプリントではなく、木自体がカーボンを蓄積している、という総合的な評価も必要だと思う。森林が適切に管理されているかという点をどのように評価していくかは、関係者だけではなく社会的なシステムとして作っていく必要があると思う(白石)。
森林で育ち、建築で使われ、やがて廃棄されるという、木材の生涯の中では、建築をいかに長生きさせるかということも大きい。現在の木造住宅の寿命30年では、森林との循環もうまくない。私自身特に力を入れていることで、環境指標に入るかどうか分からないが視点の1つに入れても良い(三澤)。
地球温暖化問題が出てきて、初めて森林や木材のすごさを認識している。日本の歴史上で循環型社会が出来ていたのが江戸時代、化石燃料を掘り出していては決して循環社会にはならない。木材を使うとCO2が出るが、また木が吸ってくれる。完璧な循環である。木は生長する分しか使えないので限度があり、どんどん化石燃料を掘り起こしてしまった。化石燃料は今まで植物達が一生懸命光合成をやった成果が地下に眠っていたものである。それをいっぺんに掘り起こして、これだけのエネルギーを得てきた。しかし、全然循環していない。そしてCO2廃棄物というものがとても厄介なものだと、やっと分かった。地下へCO2を埋設するという話もあるが、CO2をちゃんと分解してくれるのは植物である。来週洞爺湖サミットもあるが皆が考えていることは何か新しい技術が救ってくれるというものである。確かに核融合などの技術もあるが、核融合させるためにまた大量の化石エネルギーが必要となる。化石燃料を減らし、自然循環社会へ向かう際、木材のすごさを改めて認識した(熊崎)。
5年間研究会をやってきたが、環境という時代の流れが5年前に比べはるかに変わってきている。今まで研究会でやってきた事を大切にしつつ、今後は、会場にいる方々が関わっている運動や政策等に利用してもらえるように発展すること、そして時代のニーズをしっかりと受け入れてやっていくことを目標に、皆様との協働のもと、第2ステップとも言える今後の研究会の活動に努めて生きたい(藤原)。
- 作品名
- フォーラム2008
- 登録日時
- 2008/07/12(土) 20:35
- 分類
- 2008年度