ウッドマイルズフォーラム2013(ウッドマイルズ研究会発足10周年記念フォーラム)
~ウッドマイルズのこれからの利活用を問う
日時/2013年6月25日(火)13:00~17:00
場所/木材会館 7階ホール
主催/ウッドマイルズ研究会
フォーラムプログラム
【第1部:取組報告~ウッドマイルズ研究会10年間の活動と利活用事例報告】
1.ウッドマイルズ研究会10年間の活動概要について
藤原敬氏 ウッドマイルズ研究会代表運営委員
滝口泰弘 ウッドマイルズ研究会事務局長
2.屋久島町ウッドマイルズ認証制度の取組
松下修氏 松下生活研究所代表
3.地域型住宅ブランド化事業における環境貢献の見える化
榎本崇秀氏 株式会社山長商店取締役副社長
4.地域材住宅とウッドマイルズレポート
小山憲治氏 新産住拓株式会社取締役
【第2部ディスカッション~ウッドマイルズのこれからの利活用を問う】
1.今後の国の木材利用推進施策について
阿部勲氏 林野庁林政部木材利用課長
林田康孝氏 国土交通省住宅局住宅生産課木造住宅振興室長
2.ウッドマイルズのこれからの利活用を問う
【ゲストコメンテーター】
太田猛彦氏 東京大学名誉教授
【ウッドマイルズ研究会会員】
中桐秀晴氏 山梨県森林環境部富士・東部林務環境事務所県有林課
遠藤龍一氏 株式会社マルダイ営業課長
松井郁夫氏 一般社団法人ワークショップ「き」組代表理事
藤本昌也氏、熊崎実氏、藤原敬氏 +第1部報告者
(司会進行)
三澤文子氏/京都造形芸術大学通信大学院教授
2003年6月に発足したウッドマイルズ研究会の活動は、今年で11年目を迎えます。ウッドマイルズは木材の輸送負荷を示す環境指標として、及び森林と消費者の距離を縮める指標として、自治体の地域材利用推進施策や木材利用の環境貢献度のPRツール、さらには環境負荷研究の題材として幅広く利用されてきました。また、ウッドマイルズ研究会では、森林や林業の持続可能性、地域材の品質、木材のカーボンフットプリントなど、木材利用に付随する様々な課題にも取り組んできました。
研究会発足10年を経て、ウッドマイルズの利用に関する成果や課題が見え隠れする中、ウッドマイルズを活用している各地の関係者の報告を通じて、この10年間の活動による成果と課題を明確化すると共に、国の今後の関連施策等も交えたディスカッションを行い、ウッドマイルズの今後の意義や利活用方法を問うことを目的としてウッドマイルズフォーラム2013を開催しました。
フォーラムには、森林・木材・建築関係者、その他、60名が集まりました。概要を以下に報告します。
【第1部:取組報告~ウッドマイルズ研究会10年間の活動と利活用事例報告】
主催者挨拶
熊崎実氏 ウッドマイルズ研究会前会長
藤本昌也氏 ウッドマイルズ研究会会長
ウッドマイルズ研究会10周年記念フォーラムは、研究会前会長の熊崎氏および現会長の藤本氏の挨拶から始まりました。熊崎氏からは、主に町側の人達が先導した全国的な近山運動が始まり、岐阜県立森林文化アカデミーも開講した研究会発足当時の状況や思い、近くの山の木だからと甘えてはいけないという山側の責任、カスケード利用やエネルギー利用等これから求められる新しい森林経営や木材利用について、藤本氏からは、自身が取り組んできた国産材や地域材による建築づくりや、建築士会連合会における地域の活動支援などを踏まえて、ウッドマイルズの活動の次なるステップとして、地域ということをしっかりと哲学して、地域の様々な活動と連携をして社会化していけないか、という点にについて触れられました。
1.ウッドマイルズ研究会10年間の活動概要について
藤原敬氏 ウッドマイルズ研究会代表運営委員
滝口泰弘 ウッドマイルズ研究会事務局長
研究会の代表運営委員である藤原氏より、ウッドマイルズ研究会10年間の活動概要について、ウッドマイルズ関連指標及びツールの開発、ウッドマイルズレポートの発行や都道府県産材認証制度への活用、カーボンフットプリントやCASBEE指標への貢献、学会等への研究発表などの10年間の成果の報告、および今後のウッドマイルズの役割やあり方について触れられ、研究会事務局の滝口からは、この10周年記念フォーラムに合わせて発行した「ウッドマイルズ研究会10年間の歩み」冊子の内容について紹介されました。
2.屋久島町ウッドマイルズ認証制度の取組
松下修氏 松下生活研究所代表
京都府ウッドマイレージCO2認証制度に続き、自治体で利活用された2つめの事例である屋久島町ウッドマイルズ認証制度の背景と取組について、制度づくりをサポートしている松下氏より紹介されました。島外向けの合板用材など地元ではほとんど利用されていない屋久島の地杉について、価格や品質も遜色ないことから地元の大工や工務店に働きかけ協議会を立ち上げ、様々な環境指標の中でも分かり易いウッドマイルズを採用し、屋久島町の補助制度として策定、運用が始まっています。またこのような木造住宅の活動から波及して、町の施設を地杉で地元の大工で建てるという計画も動き出しています。地域の木材業について、ウッドマイルズという環境指標を用いることで一般の方々を巻き込み、最終的には地域経済の発展に皆で貢献できるという点が、ウッドマイルズ認証制度の意義であるということも示されました。
3.地域型住宅ブランド化事業における環境貢献の見える化
榎本崇秀氏 株式会社山長商店取締役副社長
和歌山県の山長商店では、紀州備長炭を江戸へという歴史を背景に、現在は首都圏の工務店を中心に年間約900棟分の紀州材を供給しています。品質にもこだわり産地表示、合法証明、JAS表示にも力を入れています。その中で国交省の長期優良住宅先導事業から地域型住宅ブランド化事業にも取り組んでいますが、木材資源と消費地が偏在している我が国では、地方から都市部への木材供給が必須であるという基本理念に基づき、木材供給を通じた林産地と都市をつなぐ新しいネットワークづくりを実践しています。消費者へ木材の環境品質をPRする手段として、ウッドマイルズや炭素固定量を見える化したエコシートを発行し、より消費者の理解を得るための表示の簡略化や、説明する側の工務店への周知にも取り組んでいます。木材業者自身ではなく第三者的な仕組みによる環境表示は、価格だけではない国産材や地域材の価値を伝えるためにとても重要なことであるということも指摘されました。
4.地域材住宅とウッドマイルズレポート
小山憲治氏 新産住拓株式会社取締役
熊本県の新産住拓では、住まいづくりを通じて地域社会に貢献するという理念の元、新産グループとしては50年、地域材による家づくりは15年前から取組んでいます。葉付き天然乾燥材や森林認証材(SGEC)の利用にも積極的に取組み、現在は年間約240棟の木造住宅を地元で供給しています。地域材による家づくりの環境貢献をPRするツールとしてウッドマイルズレポートも発行し、グループ3社の住宅展示場等でお客様への説明ツールとして活用しています。ウッドマイルズレポートについては多くのお客様に理解されるまでには至っていませんが、理解して頂けるお客様に対してしっかりと説明するというところから広げていきたい、また、森林ツアーや植林活動も合わせて、木材の地産地消の啓蒙活動を続けていきたいという思いや、地域材住宅の供給を実現するための地元での業者間の連携等についても報告されました。
【第2部ディスカッション~ウッドマイルズのこれからの利活用を問う】
冒頭に、今後の国の木材利用推進施策について、林野庁および国交省からの情報提供がありました。
1.今後の国の木材利用推進施策について
阿部勲氏 林野庁林政部木材利用課長
林田康孝氏 国土交通省住宅局住宅生産課木造住宅振興室長
林野庁の阿部課長からは、我が国の森林の現状を踏まえた現状の木材利用施策として、公共建築物の木材利用の現状と事例、土木等の新規分野での利用促進、木質バイオマスエネルギー利用、木づかい運動、カーボンフットプリントの取組に続いて、新たに始まる木材利用ポイント事業について情報が提供されました。
国交省の林田室長からは、木造住宅等の振興施策として、木造住宅に対する一般のニーズや国産材需要、住宅産業の規模や担い手の現状といった背景を踏まえた、地域型住宅ブランド化事業の概要とねらい、事業の実績や事例について、さらにはその他の関連施策の動向として大型施設の木造化や小学校の実大火災実験の取組についても報告されました。
2.ウッドマイルズのこれからの利活用を問う
続くディスカッションは、ゲストコメンテーターである太田氏からのコメントから始まりました。
太田猛彦氏 東京大学名誉教授
太田氏からは、俯瞰的な立場からのコメントとして、一つは森林や木材業という立場において森林認証やウッドマイルズを示し伝えることは義務なのではないかという点、もう一つはカーボンニュートラルとしての木材利用が地球温暖化防止や資源循環社会に貢献するという点をもっと積極的にPRすべきであるという点について、森林管理の法的な歴史や多面的機能の持続的な利用、地球環境問題による生物多様性の問題、森林バイオマスを利用してきた我々の歴史とはげ山であったかつての日本の山、企業のCSRは主たるサービス自体が持続可能な社会に貢献するという段階で完成される、地球温暖化の危機的現状、まずは地下資源から木材への代替でその後に地域材、等の各視点の解説も交えて指摘されました。
その後、ウッドマイルズ研究会会員の中桐氏、遠藤氏、松井氏による第1部報告者に対する質疑応答も交えてディスカッションが続きました。主な意見等は以下の通りです。
・川下の消費者がもっと深刻に温暖化等を認識できるようになれば、ウッドマイルズや森林認証も広がる(例えば先日の調査では、エコマークの認知度は約8割、フェアトレードは約20%、FSCの一般の認知度は約5%であった)。もっと消費者に訴えるべき。
・屋久島町の制度にウッドマイルズが採用できた一番の要因は「人」である。行政においては「担当課」ではなく「担当者」が、課が変わっても関わってくれることが成功の一つの鍵ではないか。また、産業論ではなく人や暮らしという視点で取り組めるかどうかも重要である。
・自治体の制度の背景としては、地域の人々に切実な危機感があるか(林業や山がなくなる等)どうかが重要である。
・地域材を使った方が良いと、地域の人々で話には上がるが、現実的に動かすためには補助制度がやはり必要。
・和歌山県では外向きの県外活動についても色々と補助を出してもらえるようになってきた(和歌山県産品を購入できるWEBポイントの付与等)。
・国策として税金を使ってやるからには、何故木造?何故地域材?という説明が必要になるが、その1つの説明ツールとしてウッドマイルズがあり得る。
・ウッドマイルズ関連指標は、取組み始めたばかりの工務店等は皆力を入れるが、継続してやっていくにつれて、次第に熱意が少なくなっていってしまっている。
・地域材を現実的に取り扱う上で、価格の透明性や流通の改革は、避けて通れない問題である。
・町側の業者は山側には入りたくないという本音もあると思うが、是非、山側に入り込んで、ウッドマイルズや持続可能な森林経営に対応していくことは、森林や木材を取扱う者の使命であることを、消費者も巻き込んで訴えてもらいたい。
・ウッドマイルズは業界や行政の中だけではなく、今後は一般の消費者に直接訴える機会を作り、一般に対する普及を目標として活動してほしい。
・建築の世界では分業の時代である20世紀がまだ終わっていないと言われている。時代のニーズが変化しているこれからの21世紀は、統合の時代にしないとうまくいかない。そして、統合は全国ではなく地域だからこそできることではないかと思っている。地域材やウッドマイルズをはじめとして、地域で統合できる仕組みを考えていくべきではないか。
以上でフォーラムは終了しました。本日ご参加頂きました皆様、誠に有難うございました。ウッドマイルズに限らず、地域の森林や木材を取り巻く様々な活動の、今後の議論の一助となれば幸いです。
(文責/ウッドマイルズ研究会事務局)
- 作品名
- フォーラム2013
- 登録日時
- 2013/07/03(水) 15:33
- 分類
- 2013年度