ウッドマイルズフォーラム2012
~日本の森林の今を学ぶ
日時/2012年7月21日(土)13:00~16:45
場所/木材会館 7階ホール
主催/ウッドマイルズ研究会
フォーラムプログラム
【第1部】3つの報告から、森林の今を見つめる
1.金原明善の思想を現在に 金原治山治水財団の方針
金原利幸氏 財団法人金原治山治水財団理事長
2.副業型自伐林業のススメ 全国に広がる土佐の森方式、自伐林業方式
中嶋健造氏 NPO法人土佐の森・救援隊事務局長
3.トライ・ウッドの役割 地域材ブランド「津江杉」の確立
木川研史氏 株式会社トライ・ウッド企画営業部
【第2部】ディスカッション~第1部報告を踏まえて、森林の今を考える
【コメンテーター】
箕輪光博氏/公益社団法人大日本山林会会長
熊崎実氏/一般社団法人日本木質ペレット協会会長
藤本昌也氏/株式会社現代計画研究所代表取締役会長
藤原敬氏/社団法人全国木材組合連合会常務理事
小坂善太郎氏/林野庁森林整備部計画課首席森林計画官
(コーディネーター)
三澤文子氏/京都造形芸術大学通信大学院教授
地球温暖化防止や森林林業再生、循環型社会形成などを目的として、国産材や地域材の利用促進が加速する中、公共建築物をはじめ、都道府県産材認証や地域材による家づくりグループの活動など、木材利用の様々な取組が活発化し、一般消費者においても、日本の森林や木材に関する関心が高まっています。
ウッドマイルズ研究会も、ウッドマイルズという環境指標を用いた木材の地産地消運動を始めて、今年で10年目を迎えますが、主に木材利用側の研究会関係者から「結果として日本の山は良くなっているのか、良い方向に向かっているのか、実際はどのような状況なのか知りたい」という声が上がりました。
ウッドマイルズフォーラム2012では、私たちが取組んでいる国産材や地域材の利用促進によって、日本の山がどのようになってきているのか、「日本の森林の今」をテーマに、森林の今を伝える3つの報告、およびコメンテーターを交えたディスカッションを行い、森林の現状や今後の課題について議論しました。
フォーラムには、森林・木材・建築関係者、学生、その他、57名が集まりました。概要を以下に報告します。
【第1部】3つの報告から、森林の今を見つめる
1.1.金原明善の思想を現在に 金原治山治水財団の方針
金原利幸氏 財団法人金原治山治水財団理事長
江戸から明治にかけて、自分の財産を投げ出し天竜の治山治水に大きく貢献した金原明善の玄孫(5代目)である金原利幸氏に、これからの森林経営戦略についてお話頂きました。金原治山治水財団では今、企業経営やコンサルタントなど多くの経験を持つ金原氏により、持続可能な林業を確立するために、丸太価格で採算化を目指した徹底的な効率化、合理化が進められており、丸太搬出の今年度目標は2万m3です。具体的には機械化や路網整備、ポット大苗による造林コストの低減等により生産コストを低減し、価格の安定と収益の向上を目指しています。地元森林組合の改革にも取組んでいて、地域の林家や山を守るためのCSRの徹底やプロ集団となるための計画の見直しが行われています。さらに、木材や住宅の総合展示場(Meizen Village)、野菜工場へのバイオマスボイラーの導入、原板の海外販路づくりなど、持続可能な林業確立のため、多岐に渡る試みが行われています。
2.副業型自伐林業のススメ 全国に広がる土佐の森方式、自伐林業方式
中嶋健造氏 NPO法人土佐の森・救援隊事務局長
平成15年に、土佐の放置林をなんとかしようと集まったボランティアによる伐採搬出をきっかけに始まり、現在全国に広がりつつある、地域に根差した小規模分散型自伐林業の取組についてお話頂きました。現在の林業は全て外部業者委託であり生産性重視のため、歪な就業ピラミッドになってしまっているのに対して、この自伐林業方式では、地域の林業雇用の創出や就業ピラミッドの適正化、さらには自伐であるが故の山に対する愛情、定期的な手入れ、副業でそこそこの収益、などの理由から、永続的な林業が望めると紹介されました。山を捨てたくない、林業はできればやりたい、という森林所有者達により、林地残材を出してバイオマスエネルギーに利用するという、土佐で実施された実験的事業では、収集実績量、安定性、収入ともに着実な成果を出しています。大規模事業の失敗から復活した人やIターン、Uターン者の仲間も増えつつあり、場所によっては地域の森林組合の倍の量を搬出しているそうです。小規模、多目的、多様という自伐林業スタイルこそが、地域の林業雇用を生み、日本の山を救うというこの試みが、全国各地に広がっています。
3.トライ・ウッドの役割 地域材ブランド「津江杉」の確立
木川研史氏 株式会社トライ・ウッド企画営業部
地域の9割を森林が占める大分県(上・中津江)の森林資源を利用し、地域に還元することを主な役割とし、森林施業から木材製品販売まで一貫して手掛けている(株)トライ・ウッドの試みをお話し頂きました。森林所有者と関わる森林保全部、大工・工務店の関わる製材加工部共に、事業推進の核を解決策の提案として、特に心の充足や合意形成を重要視し具体的な各課題の解決に取組んでいます。また、ユーザーが求めている品質、健康性を重視した津江杉の品質基準の策定や、顔の見える津江杉ブランドの確立なども積極的に取組み、これらの総合力によって、自立的な経済林と健全な環境林の両立を図ることが進められています。
【第2部】ディスカッション~第1部報告を踏まえて、森林の今を考える
【コメンテーター】
箕輪光博氏/公益社団法人大日本山林会会長
熊崎実氏/一般社団法人日本木質ペレット協会会長
藤本昌也氏/株式会社現代計画研究所代表取締役会長
藤原敬氏/社団法人全国木材組合連合会常務理事
小坂善太郎氏/林野庁森林整備部計画課首席森林計画官
(コーディネーター)
三澤文子氏/京都造形芸術大学通信大学院教授
ディスカッションでは、冒頭に、林野庁の現在の施策、及びグリーンエコノミーという海外の動向について報告があり、各コメンテーターからの意見へと続きました。
森林・林業の再生に向けて
小坂善太郎氏 林野庁森林整備部計画課首席森林計画官
毎年1億m3増え続けている森林資源の循環利用のため、これからは木材を出す時代であり、森林・林業再生プランの実現や森林計画制度の見直しを通じて、立木価格減少という現状に対する生産側のコストダウン、路網や流通の考え方の整理、多面的な安定供給策、旧態依然の意識や構造の改革、赤字経営の解消や雇用の拡大など、今後の総合的な取組の概要について報告して頂きました。
グリーンエコノミーとウッドマイルズ リオ+20に参加して
藤原敬氏/社団法人全国木材組合連合会常務理事
先月(6月)、リオデジャネイロで開催された国際会議RIO+20に、ウッドマイルズ研究会として参加した藤原氏より、会議でテーマとなっているグリーンエコノミーの動向について報告して頂きました。結果としてグリーンエコノミーの定義付けまで至らなかったことが非難の対象になっているようですが、グリーンエコノミーが重要なツールであると認識された事や途上国の宣言による援助が決まったことなどの成果もあり、500を超えるサブイベントの開催など、注目された国際会議の模様について、報告して頂きました。
箕輪氏からは、専門である森林経営学について、明治期は森林設計学だったものが、その後経理学へかわっていったことや、大日本山林会でこの度取りまとめられた書籍「森林経営の新たな展開」の紹介を交えて、山は環境面だけでなはなく、もっと力のある自然資本と言うべきもので、今回のフォーラムのテーマは「森林を見つめる」ではなく、「林業を見つめる」と言うべきとの指摘も受けました。
熊崎氏からは、バイオマス電力の固定買取制度を背景として最近設立された、木質バイオマスエネルギー利用推進協議会(会長:熊崎氏)の紹介を交えて、この度決められた高額な固定買取価格に対して、海外の事例も含めて、樹木のカスケード利用がしっかりと行われていない現状でのリスクが強調されました。広葉樹林の林業の可能性も触れられました。
広葉樹林のバイオマス利用について、中嶋氏からは、現状の制度は専業しかサポートしていないが、副業であれば今すぐにでも成立することや、広葉樹林が荒れているのは自伐ではなく全て業者林業になったからであるとし、またカスケード利用のない現状で、現在の買取価格で発電所を各地につくると、全て発電用に流れてしまう可能性も指摘されました。
小坂氏からは、プレミアム価格による山荒らしを防ぐため、制度に経営計画も義務付けていることや再造林に対する補助、発電所の地域に対するインパクトなどにも触れられました。
藤本氏からは、建築業界も林業と同じ問題を抱えている現状として、住宅メーカー主導でやってきた今、地域の中小工務店がおかしくなってきている点を指摘し、現在では国も中小工務店を応援する施策を行っているが、大規模だけではなく小規模連携がないと、成熟社会である日本のニーズには答えられないため、大小双方を認める多様な社会にしていく必要性があるとされました。
藤原氏からは、国際会議でも同様だが、木材は将来必ず必要になる資源であり、昨今の木材価格の下落についても触れられました。
その後も議論は続き、
・大規模経営を継続させるための木材販路は海外の市場しかない
・市場主義で山が荒れるのを防ぐ制度は既に国が実施している
・山荒らしは過去に何度もあり歴史からしっかりと学ぶべき
・木材の伐採はあくまでも森林更新のための手段であり森林経営から森林管理という認識に変わったことが大きな問題
・業者による請負林業は地域を点々とするが、どうやって地域の人が地域の山を守るか、森林組合でも考え方が代わればできることであり今その動きが出てきている
・請負という形態ではなく、誰が責任をもってやるのかが大切
・バイオマス利用はカスケード利用があって初めてうまくいくもので、建築用材、パルプ用材と、その下支えとしてのバイオマスという、WIN,WINの関係を作るべき
と、様々な意見交換が行われ、最後は箕輪氏より「今日報告頂いた方々のように、論理ではなく、とにかく楽しく、おもしろく、情熱や倫理をもってやるということが何より重要である」とコメントを頂き、ディスカッションは終了しました。
本日ご登壇頂きました皆様、本当に有難うございました。
(文責/ウッドマイルズ研究会事務局)
- 作品名
- フォーラム2012
- 登録日時
- 2012/08/05(日) 16:20
- 分類
- 2012年度