ドイツ黒い森(シュヴァルツヴァルド)林業視察報告
2009年9月19日~23日の5日間、京都府関係者や京大生によるドイツ林業視察会に個人的に参加し、黒い森と言われる南ドイツのシュヴァルツヴァルドにおける林業や木材業の一部を、池田憲昭氏(ドイツ在住ジャーナリスト)コーディネートのもと視察しました。森林木材業についてとても有益な情報であったため、ご専門の方々は既に周知のことかもしれませんが、視察の概要を以下にまとめました。私自身専門外かつ現地で見聞したもののみ記載しているため、誤った理解等がございましたらご指摘頂けたら幸いです。
<目次>
1.ドイツの林業
1.1ドイツ林業の特徴 池田氏現地レクチャーより
1.2私有林家の林業 Bad Griesbach村 map①
1.3伝統的な拓伐林 Wolfach近郊 map②
1.4典型的な農家林 Biederbach村 map③
1.5林業機械による作業現場 Loeffingen市 map④
2.ドイツの自然保護区、高原牧場、森林公園
2.1自然保護区 Feldberg map⑤
2.2高原牧場、森林公園 Freiburg近郊 map⑥
3.ドイツの製材業
3.1大規模製材所 Streit社
3.2中規模製材所 Zipfel社(Biederbach村)
4.その他関連業
4.1林業機械メーカー Welte社
4.2バイオマス熱供給施設 Elzach市
4.3プレカット工場 Schwarzwaldabbund社(Tannheim村)
4.4角ログハウス、中山間地の木造建築
1.ドイツの林業
1.1ドイツ林業の特徴 池田氏現地レクチャーより
ドイツの森林率は30%(約1,000万ha)。ほぼ全てが木材生産林で日本の人工林(約1,000万ha)とほぼ同じ面積です。私有林は約50%で50ha以下の小規模所有者も多く、所有規模・形態ともに日本とよく似ています。日本の戦後と同様にドイツでも産業革命や世界大戦により森林が荒廃したそうですが、その後200年かけて現在の持続可能な樹齢構成をつくりあげました。氷河期の影響で樹種は少なく(トウヒ・モミ:33%、マツ・カラマツ:26%、ブナ:31%、オーク:10%)、製紙パルプは輸入に頼っていますが、製材品の自給率は100%以上です。ドイツの生産林の蓄積は310m3/ha、成長量は12.2m3/ha年、伐採量は8.7m3/ha年で、年間約8,700万m3という日本の約5倍の木材を生産しています。原則皆伐は禁止で一部植林もしますが、基本的に天然更新です。早い段階で優良木(将来の木)にマーキングを施し集中的に育成し、標準伐期(トウヒ:40~60年)の1.5~2倍の長伐期によって、収益のあがる大径木を択伐しながら天然更新を促すという林業です。
ドイツは路網や林業機械の整備で有名ですが、路網整備は1960年代から補助金もかなり投入され(林道は70~80%補助)、20mの原木を運ぶトレーラーの林道は50m/ha、林業機械のための作業道は60m/haという密度の道により生産性を高めています。また土をしめ固めた程度の舗装で一般車輌の通行は禁止され、地域の方が散歩にも利用していました。今回の視察では日本のような急峻な山はほとんどありませんでしたが、チェーンソー+スキッダー、チェーンソー+架線集材、ハーベスタ+フォワーダー、という3つの作業システムが主流で、コスト計算ソフト+各機械メーカー実地データから、作業量とコストによる生産性を割り出した上で作業システムを決め、林道や作業道はこの作業システムから設計されます。機械化が進んだ理由は、危険な林業労働の改善、木材市場のグローバル化による材価の低下への対応、素材生産業の民営化による事業量の確保、中小林業機械メーカーの開発の早さ、などです。
もう一つ忘れてはならないのが、行政と教育の特徴です。ドイツの森林行政は、当時の領主が、森林荒廃に伴い災害も多発したことから森林署を設置し、開墾や皆伐の禁止、持続可能な経営の義務付けなどを行ったことにはじまります。現在の森林行政の組織は、「森林担当部局(国)」のもと「森林局(州)」が、その下に「森林署」が配置されているという構成です。「森林署」は現場に最も近く大きな役割を担っています。私有林も含めたすべての所有形態の森林に対して、法律規則の監視、林業経営、伐採、木材販売などのプランニングやコーディネートなど全てのコンサルティングを行います。林業職としては、「林業作業員」、「区画担当森林官」、「幹部森林官」という3種があり、各々決められた教育プログラムがあります。視察したほとんどの森林は「区画担当森林官」が案内してくれましたが、彼らは2000ha程度毎に配置され、家族共々地域の一員として基本的に定年まで同じ場所で働きます。小規模所有者が多い場所では信頼関係を築くのに5年は必要で、精神的に参ってしまう森林官もいるそうですが、地域で頼りになる憧れの職業でもあります。民間の経済行為と一線を引く日本の行政とはずいぶん異なりますが、かなりの成果を上げているようです。
これらドイツ林業の詳細については、2008年7月に日本で開催された池田氏+ドイツ元森林官によるセミナー「ドイツからみた日本の森林・林業の課題/農林中金総合研究所」の講演録にも記載されています。
※講演録 (1,811KB)→ファイル 35-9.pdf
1.2私有林家の林業 Bad Griesbach村
20ha以上の森林所有者は、10年毎に所有する森林の詳細な管理計画を、税務署へ提出することが義務付けられています。林齢、樹種、単層複層など林分の状態を調査し、成長量に応じた伐採量を計画し実践しています。これらの計画は森林官などの有資格者に委託して作成し50%程度補助金も受けられるそうです。これらの制度によりドイツでは森林の資源量をかなり正確に把握しています。
視察したのは100ha程度を所有するFrechさん(67歳)の森林です。トウヒとミズナラの森林は、日光の調整で下草や天然更新を管理し、枝打ちはしないようです。伐採作業も見学しました。中古の農業用重機にアタッチメントを付けた100万円程度の重機で、原則1人で作業を行います。多い日は10m3ほど出すそうです。見学でもチェーンソーで伐倒した40m程度のトウヒをワイヤーで引張り出し、根本部分は薪用として自宅に持ち帰っていました(重機には薪割り機も付いています)。ドイツは原木市場が無く価格は国際市場が決定するため、100ha程度の林業だけでは食べていけないので土木工事等も行い、400~500万円の年収を得ているそうです。後継者や相続問題など日本と同様の問題も抱えているようでした。
1.3伝統的な拓伐林 Wolfach近郊
800年前の入植時に領主が土地を与え、その後家族が代々受け継いできた伝統的な土地です(地図の青が私有林、ピンクは市有林、緑は州有林)。酪農と林業の兼業農家が多く、木材生産のための森林は28世帯による共有林です。小規模農家のため町の工場で働き余暇的に林業をやるところが多く、また観光のための牧草地化や蓄積の適正化を考えると、森林官としてはもっと伐採したいが、いざと言うときのため切りたがらない所有者が多いようです。
択伐林の施業は、樹齢は関係なく太さと質で残す木(優良木)を選び、優良木の成長を阻害する木を伐ります。選木は森林官が伐採は所有者が行っていますが、高齢化や技術低下のため業者への依頼を勧めているそうです。天然更新が基本である、トウヒ(75%)、モミ(20%)、ブナ(5%)の混交林です。土壌のためにはブナを25%にしたいそうですが、高く売れないため5%にとどまっています。択伐林の条件は陰樹、密な路網、高い伐採技術、短スパンでの施業(3~5年に一度)です。継続的な高い収益や低コストがメリットで、小規模所有者に有利とのことです。
原木は20~21mが基本です。現在は交通法でトレーラーは最長24mと規定されていますが以前はもっと長かったようです。質の良いものは元玉5mの場合もあります。良いモミは卒塔婆として日本に高く売れたとのことです。林道端販売価格(輸送費は製材所もち)は、モミが11,000円/m3、一般製材用が約7,400円/m3、チップ用が約3,200円/m3、平均7,500円/m3で、伐採費用2,500円/m3と森林官手数料約200円/m3(行政のサービス価格)を差し引いた4,800円/m3が収益となるそうです(1ユーロ=130円換算の概算)。
また、シカの頭数管理も被害調査を行った上で森林局を中心に行われています。温暖化の影響による虫害も増えているそうで、フライブルグの研究所では気候変動の時代における森づくりが一つのテーマになっているとのことです。ブナをバイオマス燃料用として増産するという計画もあるようです。
1.4典型的な農家林 Biederbach村
黒い森地方は寒く土地もやせているため農家には厳しく、この地域の農家が所有している平均10ha程度の土地(農地と森林が半々程度)では森林の収入がとても大きいそうです。今回の見学地は第二次大戦後トウヒが一斉造林された50年生程度の森林で、5年前に初めて道づくりから手を入れたところです。林道から50m間隔で幅6mの作業道を入れ、その周囲を間伐しています。私有林のため幅の広い作業道を入れることは所有者からの反発も多く、説得するのがたいへんだそうです。施業は優良木(将来の木)を10mに1本程マーキングし、その成長を阻害する木を伐採します。風を遮る外周部の木は残します。施業方法は多様であったほうが森は安定するというのが森林官の考えですが、所有者の考えも様々で、特に畑の知識で考える農家の森の場合、均一な森林になりやすいとのことです。
地域の林業共同体の会長さんのお話も伺いました。200人が所有する合計2,000haの森林を共同管理しているこの林業共同体は、林業機械の共同購入や使用、補助金の受皿、製材所との価格交渉などが主な役割で、役員はボランティア、マネージメントは森林官が行っているそうです。また、特に大規模な製材工場からの圧力や交渉に対抗するため、さらには政治への影響力等を高めるため、幾つかの林業共同体と自治体による森林組合(8,000ha弱の規模:これを超えるとドイツの独占禁止法に抵触するようです)も組織されています。
1.5林業機械による作業現場 Loeffingen市
この森林は村有林(800ha)で、トウヒを年間6~7千m3出し、1,300~1,950万円の収益をあげ(1ユーロ=130円換算の概算)、村の貴重な収入源になっています。同時にライチョウ保護のための施業をしています。ライチョウ基金があり自然保護にも理解のある地域だそうです。ライチョウ保護のために、光をあてベリーを増やす、あえて密な所をつくる、作業道を一部広くする(ライチョウの滑走路)など工夫されています。林道端には出荷先別(トウヒ→建築用・パルプ用、マツ→パレット用、小径木→イタリアの電柱用)に仕分けされた原木が積まれていました。
林業機械による作業現場を見学しましたが、1~2人の民間業者によるハーベスタとフォアーダーのセットで、次々に機械にインプットされた長さに丸太を切り、運び出していました。地域の業者による指名入札のようですが、明確なコスト表があり癒着は無いとのこと。5,500万円のハーベスタ、3,800万円のフォアーダーは、3年程度で償却できるそうです。
2.ドイツの自然保護区、高原牧場、森林公園
2.1自然保護区 Feldberg⑤
フライブルグ近郊の山の上の自然保護区をレンジャーに案内してもらいました。1937年に自然保護区に指定(ドイツ最古)、標高1500mに森林と牧草地が広がり(森林限界は1600m)、牧草地には氷河期から残るアルプ特有の植生が残り、保護林には貴重種であるライチョウや一度はいなくなったキツツキがいるそうです。かつてはトウヒ、モミ、ブナ、カエデの混交林でしたが、森林荒廃の再生においてトウヒが優先されました。トウヒ一斉林の風害やキクイムシによる被害もありますが、保護区なので放置し、天然更新させることで多様な生態系を維持しています。
牧草地には根で焼酎をつくる植物や薬草もあり、近隣農家のみが収穫できます。また近隣農家の若い牛が牧草地を保つため無料で放牧されています。スキー場も併設していて観光客も多く、牧草地の踏み固めを防ぐ道づくりや看板の設置、啓蒙活動に努めると共に農村の貴重な観光収入を両立させていて(夏場50万人、冬場100万人)、高い評価を受けています。
2.2高原牧場、森林公園 Freiburg近郊
フライブルグの郊外には写真のような美しい高原の風景が広がっています。これらは高原牧場ですが、ミルクの値段は30円/ℓ程度(日本の約半額)で生計が成り立たないため、農家の年収の50~70%は、EUと国が半々で補助しているそうです。そのかわり、美しい景観を保つことが補助の条件のようです。
フライブルグ近郊の森林公園にも立ち寄りました。市有林である公園には散歩や余暇を楽しむ多くの市民がいましたが、ここでは林業もやっています。FSC森林認証もとっているそうです。公園内には伐採され、小口に寸法や伐採地情報などが番号で示された丸太も積んでありました(ドイツでは丸太の中央の直径でm3を計算するそうです)。これらの枝葉はこの場でチッパーにてチップにするそうです。ダグラスファーやスギなど様々な外来種も試験的に植えられていました。
3.ドイツの製材業
3.1大規模製材所 Streit社
ドイツの木材流通は、森林→製材工場→ユーザー(一部卸・小売有り)という単純な構造で、原木市場はありません。大径広葉樹の銘木市場(年1回、3月)のみあるそうです。山側は各区域の森林を集めて共同体や連盟を組織し大規模製材工場と販売契約をします(価格は3ヶ月毎に更新)。林道端へ積まれた原木は製材工場が取りに行きます。2004年の製材工場総数は2,465、内1,800が針葉樹材工場です。製材総量は製材品で3,340万m3(針葉樹92%、広葉樹8%)、2/3が10万m3以上の大規模工場で生産されていて、日本と同様に製材工場の大規模集約化が進んでいるようです。
Streit社では80人の従業員にて年間38万m3の原木を取扱っています(今期は金融危機の影響で32m3程度)。原木入荷はトレーラー1万2千台、製材品出荷はトレーラー9千台分です。全て針葉樹で建築用材がメイン。製材歩留まりは50%でチップはすべてパルプ用、おが粉はMDF用として各工場から取りに来ます。原木調達は90%が150㎞圏内の黒い森から、製材品出荷先は、フランス(48%)、イギリス(16%)、ドイツ(10%)、アイルランド(9%)、その他で、9割が輸出です。各ユーザーの規格別に製材しています(フランス規格は、屋根野地板36㎜×97㎜×3~6m、柱梁75㎜×200、225㎜)。日本へも輸出していたようですが現在は行っていません。北ドイツの方では規模が大きすぎて地域材だけでは賄えないところもあるようです。
製材ラインは大径木、小中径木の2つのラインにて、注文データが入力されたコンピューター一括管理にて、チッピングキャンター+丸ノコで高速大量製材され、ユーザー別のボックスに製品が自動分別されます。オペレーター室はおが屑や騒音から分離され、ディスプレイで全ての行程の管理ができるようになっています。
今期の価格は金融危機で厳しく、価格は原木(10,400円/m3)、建築用製材品(20,800~23,400円/m3)、チップ(4,160円/t)程度でほとんど儲けがないそうです(1ユーロ=130円換算の概算)。また、PEFCと品質規格の少なくとも2つの認証を取得しています(JAS認定工場は取得していませんが、シュトットガルトとミュンヘンに取得工場があるそうです)。これ以上の大規模化は行わないそうですが、乾燥(現在は外注ですが、金融危機の経済対策で設置費2,000万円の8割補助があり、現在計画中とのことです。)や仕上などの2次3次加工により付加価値を高めていくことや、より近くから原木を調達することが課題のようです。
3.2中規模製材所 Zipfel社(Biederbach村)
地域の小規模製材所として紹介されましたが、原木25,000m3/年を取り扱う、日本で言う中規模程度の製材工場です。兄弟3人で経営し従業員は15名。建築用材が主で地域の小さなニーズに応えています(1本からでもOK)が、地元の建築需要が少ないため、数年前から梱包用材も始め、発注エリアの拡大(北ドイツ、イタリア、フランスなど)に努めています。
原木は15㎞圏内から調達。製材は二枚の刃が上下運動するオサノコで、ニーズが多様化しているので高性能のレーザー設備(ドイツでもまだ数台しか無い)にて向きや節などを確認しています。オペレーター室はやはり隔離されていてモニターで管理しています。歩留まりは約62%。バークやおが粉は、昔はゴミとして処理(有料)していたそうですが、今は燃料としてセメント工場やペレット工場へ出荷されています。
4.その他関連業
4.1林業機械メーカー Welte社
ドイツは林業機械専門メーカーがあることでも知られています。こちらの会社はスキッダの国内シェアが50%、輸出もしており、日本へも北海道に数台納入したそうです。1台数千万円の高価な機械ですがプロは6年で買い換えるとのこと、部品は20年保証付です。
4.2バイオマス熱供給施設 Elzach市
1996年に製材工場として建設、同時にその端材で熱供給事業も開始(住宅地開発においてはこのような熱供給が義務付けされています)しましたが、1999年に倒産。その後新組織により熱供給事業のみ再開している施設です。付近の75世帯の住宅と2つのスーパー、自動車代理店、隣接工場の熱供給を行っていて、年間120万Kwの熱供給をしています。チップの自動投入により燃焼+灰の2次燃焼でチップを乾燥しながら湯をつくり、熱交換器により高圧の湯へ熱を移し、輸送パイプで各家庭に暖房や給湯用の熱エネルギーとして供給されています。輸送パイプの事故はセンサーで管理し、万一の場合に備えて石油ボイラーも併設されています。施設の管理は別の場所の事務所で、遠隔操作(24時間体制)にて行われています。
チップ原料は2,500~2,800m3/年必要で、林地残材の方が少し高価なため10㎞先の製材工場の端材のみ使用しています。最近はチップ価格も高騰しているため7年で収穫できる木(ヤナギの一種)の栽培も始めていました。ドイツでは世帯の20%が木質暖房、その内1/5は給湯も木質系ボイラーで、古いガスや石油ストーブの買い替えがここ数年急速に増えているようです。理由は石油とガスの高騰、助成金、活発な林業や木材業です。田舎では薪、都会ではペレットが主流のようです。
4.3プレカット工場 Schwarzwaldabbund社(Tannheim村)
前述のZipfel社(中規模製材工場)から材を調達している地域のプレカット工場です。創業136年を迎えるオーナーは、当初は製材+農業+ホテル・レストラン経営を行っていたそうですが、製材は5年前に廃止し、プレカットは21年前から始めています。年間の製品出荷は3,500m3(50~70棟分)、地域の100㎞圏内程度の工務店に出荷しています。
材のプレカットと壁パネルの製作までを行っていますが(日本の木質系プレハブ住宅のイメージです)、壁パネルの需要が増え、5年前に壁パネル製作棟が新築されています。パネルのOSBはPEFC認証製品でした。一部の集成材は別途集成材工場より入荷しています。
設計室には専門教育を受けた3名の大工マイスターがいます(従業員は12名)。工務店からの設計図面(材のサイズは指定)を元に組み方はここで決めています(と言われましたが、材のサイズと組み方を別々に考えるのはおかしいので、詳細はよく分かりませんでした)。木造を知らない建築家も多いそうです(日本と同じです)。また設計は通常、設計士+構造士で行われ、日本の確認申請のような行政のチェックは無いとのことでした。
4.4木造住宅 角ログハウス、中山間地の木造建築
最後に見学したプレカット工場の近くのブロックハウス(角ログハウス)の建設現場です。住宅ではなくボーイスカウトの施設のため少々大きいですが、240×240㎜の集成角材をログハウスとして積上げたもので、主要な梁桁以外の床梁や造作、仕上はムク材でした(接合部は金物)。建具や水切りも全て木で、屋根は素地の瓦のようなものが葺かれています。
この施設の木材の使用量は150m3だそうです。一般的な住宅でも70m3/件は使うとのことで、炭素固定量も膨大です。断熱材(床と屋根?)にはエコ化された繊維系のものが使用され、主暖房は薪ストーブです。電気コンセントも全て電磁波対応のアース付きでした。
今回は建築の視察ではなかったため、詳細な解説はできませんが、その他目にした木造建築を簡単にご紹介します。
中間産地の木造住宅は小屋裏を含め3階建てが基本で、外壁の板はトウヒです。道路から見えるほとんどの住宅が、造花とも思えるほど綺麗な花を飾っていたのが印象的でした。またソーラーパネルも多く目にしました。
古い木造の山小屋風レストランです。構造は大断面のムク材で組まれています。
(左)訪れたネイチャーセンター(大断面集成材)。(右)同場所併設のスキー場のリフト乗り場(木造)。
フライブルグ郊外の市役所です。一見木造には見えませんが、内部の床組みや階段などは全て木造でした。
(左)案内サイン。(右)滞在していたフライブルグ校外の町並みです。道路脇の白い袋はゴミ収集袋です。ちなみにこの辺りの住宅購入価格は、土地付き述床125㎡で3,500万円程度だそうです。
さいごに
林業といえばドイツ、1度は見ておきたいと視察会に参加させて頂きましたが、合理的なシステムや関わる人々の活気等々に圧倒される毎日でした。5日間という限られた時間の中で良い部分のみを見聞したに過ぎず、気候風土や地形・樹種など真似できないものばかりかもしれませんが、これらを支える教育や制度は日本でも可能だと思いました。
森林官とそれらを育成する教育や行政制度ですが、林業に限らず木造建築においても、戦後の大火を経験し「木造は町を滅ぼす」とされ、木造教育自体が発展普及してこなかった歴史もありますが、今の教育は実学離れし過ぎています(私自身、建築の大学を出て設計事務所に勤め、建築士も取得しましたが、その後岐阜県立森林文化アカデミーに入ったことで、初めて木造建築の実学教育に出会いました)。行政においても、民との関わり方、職場の移動、中央依存など、改革すべき多くの点がドイツの森林官制度との比較で見えてきます。
先日1000年のヒノキの天然林(神宮美林/岐阜県)に訪れ話を伺う機会がありました。この天然林は気候やその他の様々な植生による奇跡の産物であることを伺い、全て伐採してもまた1000年後には同様の天然林となるであろうとのことでした。気の遠くなるような森林の時間を改めて認識したのですが、ドイツの持続可能な森林は200年の努力によるものです。戦後数十年の日本はまだその1/4程度を経たに過ぎません。目先の危機や利害に対応することも必要ですが、100年~150年先に完成するような持続可能なビジョンを訴える人達や運動が、もっと露出される状況にしていくべきだと思います。そのためには日々の収益に左右されない公務員の存在がとても重要になるとも思いますが、政権交代が行われた今こそ声を上げる時でもあり、ドイツの森林官に学び、制度や教育といった仕組みを改革していくことが、自分達の世代(特に林業に直接携わっていない私のような者)ができること、やるべきことだと強く感じました。
以上、乱筆乱文ではございますが、皆様の議論や活動に少しでもお役に立てれば幸いです。ご指摘や感想、ご意見など是非お寄せ下さい。
さいごに、今回の視察会の企画や段取り、現地での案内や運転など、池田さん、京都府関係の方々、京都大学の方々にはたいへんお世話になりました。改めてお礼申し上げます。帰国直後に参加メンバーの方々が書いた感想集を頂きましたので、ご参考までに下記に掲載致します。
(滝口泰弘/ウッドマイルズ研究会事務局)
※視察メンバーの感想集(189KB)→ファイル 35-86.pdf
- 作品名
- ドイツ林業視察会
- 登録日時
- 2009/11/20(金) 13:00
- 分類
- 2009年度