ウッドマイルズセミナー2009~「環境」と「品質」の総合力による地域材普及戦略を考える
日時/2009年9月15日(火)13:00~17:00、9月16日(水)9:00~12:00
場所/京都府職員福利厚生センター 3階第1会議室
主催/ウッドマイルズ研究会 共催/京都府
後援/(社)日本建築士会連合、(社)全国木材組合連合会、(財)日本住宅・木材技術センター、(社)京都府建築士会、京都府地球温暖化防止活動推進センター、京都府産木材認証制度運営協議会
9/15(火)13:00~17:00
【第Ⅰ部:地域材に求められる品質、普及戦略を学ぶ】
『地域材に求められる品質』
槌本敬大/国土交通省国土技術政策総合研究所総合技術政策研究センター評価システム研究室長
『木材を取り巻く環境指標、環境政策の動向』
滝口泰弘/ウッドマイルズ研究会事務局長
『地域材の普及戦略』
野池政宏/住まいと環境社代表
9/16(水)9:00~12:00
【第Ⅱ部:各地の取組から、現状の課題や可能性を探る】
『京都府の取組』
柴田繁/京都府農林水産部林務課主査、堀井誠史/京都府産木材認証制度運営協議会会長
『新潟県の取組』
二野宮雅宏/新潟県農林水産部林政課参事、重川隆志/(株)重川材木店取締役
【第Ⅲ部:意見交換会】
(特別ゲスト)池渕雅和/林野庁林政部木材利用課長
(コーディネーター)野池政宏/住まいと環境社代表
カーボンオフセット、環境貢献の「見える化」、長期優良住宅など、国産材や地域材に対して、環境的側面から追い風が吹いています。ウッドマイルズ研究会では、木材輸送のみならず、環境貢献の総合的な「見える化」を目指して、森林~木材~家づくり、という一連の環境指標の連携を呼びかけています。一方で、全国的に展開されている、木材の地産地消や、川上川下の連携による顔の見える家づくりにおいては、乾燥、強度、納期などに代表される地域材の品質確保が、依然として課題とされているのも実態です。環境貢献に優れていても、品質が曖昧なままでは、地域材の利用拡大は考え難いです。「環境」+「品質」という総合力をもってこそ、地域材の利用拡大が見えてきます。改めて地域材に求められる品質やニーズを学び、今後の各地の地域材利用や普及戦略に活かすため、セミナーが開催されました。
官公庁関係者、森林・木材・建築関係者、学生、その他一般など、総勢62名が集まり、木村祐一氏(京都府農林水産部林務課長)の「環境に優しく暖かく優しい木材が、府民の暮らしの中に多く取り入れられるよう、木材の産地証明と輸送過程CO2の明示を併せ持つ京都府産木材認証制度(ウッドマイレージCO2認証制度)、認証木材利用住宅の建設支援、府民や企業の連携により森づくりを進めるモデルフォレスト運動を運用しています。本日の講演および活発な意見交換によりヒントを見出し、各地で新たな活動が実現することを願っています。」という開会挨拶に始まったセミナーの概要を以下に報告します。
9月15日(火)
第Ⅰ部:地域材に求められる品質、普及戦略を学ぶ
①地域材に求められる品質
槌本敬大氏
/国土交通省国土技術政策総合研究所総合技術政策研究センター評価システム研究室長
輸入材、国産材、地域材とは、木材の産地の違いであって、一般的に建築物に使う(構造耐力上主要な部分に使う)木材の品質については、地域材だからといって特別に区分することはできない。
建築基準関係法令における要求
一般的に建築物に使う木材に求められる性能、品質について、現行の建築基準関連法令(建築基準法、施行令、施行規則、告示)で要求されているものを紹介。木材や木質材料への要求事項は、工法、使用部位、使用環境、構造性能検証法ごとに異なっており、また接着製品には規制が多いという、それぞれの条文や規制の詳細についての解説に続き、材料の品質を規定する建築基準法37条の考え方の解説の中では、強度の低い材料であっても設計の工夫によって、いくらでも良い建築物ができる事が強調された。
木材の特性と要求性能・品質
木材研究者として国産材や地域材を使うべきだと思っているが、使いたいのに何故使われないのか、使い難いのかについて、原因は性能にバラツキのある木材と建築物の要求性能のミスマッチがあるとして、実験データも交えながら、木材の強度に関連する、樹種、バラツキ、欠点、木取り(異方性)、含水率、荷重継続時間、寸法、応力、について、各々の要求性能や品質の詳細を解説。
地域材について思うこと
最後に一個人の研究者として思うこととして、グローバルな視点からは世界の発展のためには輸入も必要であることや、強度等級区分がされていない建築構造材を出荷している先進国は存在しないという現状を基に、国内のJAS認定工場においてJAS製品がほとんど出荷されていない現状に対して、製材工場のヒアリング調査を通じて得た、公共建築以外のJAS要求が無いこと、使用者側にJAS知識が無いこと、認定工場の経費、低質材の価格や販売の課題などを問題点とし、JASの簡素化や認定取得コストの削減、建築基準において必要最小限の品質要求が作れるか等、解決へ向けたポイントを紹介。
②木材を取り巻く環境指標、環境政策の動向
滝口泰弘/ウッドマイルズ研究会事務局長
ウッドマイルズ研究会を取り巻く動向を中心に報告。
木材の「環境」を取り巻く動向
再生可能な天然資源かつカーボンニュートラルである木材を前提として、建材としての炭素排出量や固定量、CABEEの木材評価、カーボンオフセット制度の現状、長期優良住宅法の中の国産材など、環境時代の現状において幅広くクローズアップされつつある木材の優位性、および政府主導のカーボンフットプリント制度やポスト京都議定書を間近に控えた現状を紹介すると共に、ウッドマイルズを始めとする、環境貢献の「見える化」の必要性を訴えた。
ウッドマイルズの概要
ウッドマイルズの概要を改めて解説すると共に、木材の輸送過程排出CO2の見える化と、産地と消費者をつなぐ流通過程の見える化、という2つの側面の「見える化」であること、また、単純明快かつ地域材利用促進において使いやすいことを強調。さらには、昨今の国産材普及においてウッドマイルズが再び注目されてきた点や、もっと単純で分かりやすい指標としての改良が求められている現状を報告。
木材の環境指標の連携を目指して
最後に、ウッドマイルズはあくまでも木材輸送という一部分で、森林~木材~家づくりという適正な循環を実現するためには、環境指標を切り口とした他との連携が欠かせないという認識から、研究会が取り組みを始めた「木材の環境指標の連携」について、様々な環境指標や、具体的先進事例の紹介を交えて報告。
③地域材の普及戦略
野池政宏氏/住まいと環境社代表
環境負荷の少ない住まいと暮らしを普及することがライフワーク。ここ数年は全国の工務店に対して、総合的にしっかりと地域に評価され、安定経営に繋がるためのサポートを中心に行っている。今日のテーマである国産材や地域材は、もう少しちゃんと使っていくということが、どう考えても正解。今まで色々な事をやってきたが、普及について皆本当に真剣に考えているのか正直疑問があり、より大きな所を目指して皆でやっていくという動きも出てきていない。今まで活動してきて感じていることを素直に伝えたい。
認識・戦略の基本、世の中の流れ
建築用材の最終費用負担は建築主であり建築主は何よりも品質を求める、木材品質はあくまでも一要素、注文住宅は「つくり手」が選ばれ、地域材の優先順位は一般的にごくわずかである、という認識の基、地域材利用により評価されるという認識、具体的手法をつくり手に与え、それを後押しする世間のムードをつくる。長期優良住宅の流れによる性能表示の具体的活用や新政権の動向といった世の中の流れの整理も大切。
地域材の住宅戦略、環境メリット戦略
環境主義への共感、川上まで顔が見えるという品質確保、環境メリットへの共感、真面目さを伝える、助成金の利用等が地域材住宅戦略の成功例としてあげられる。性能や環境を要求する建築主はじわじわと増えているが、デザインを最初のフィルターとして、安心・信頼・共感・納得を得たつくり手が選ばれ、木材の含水率や強度まで理解する建築主はほとんどいないのも実際である。だからといって建築主は、嘘や論理の不整合は敏感に感じるので、分かり易くきちんとした論理や根拠を持つことが重要。また世間のムードを高めるためには「環境メリット」に「品質」を加えていくことが必要。
第2集団のつくり手の形成
現在のトップランナー達(総合力があり成功していて、地域材も使っている)を第1集団とすると、すごいスピードで変わる時代の中で、第2集団として総合力を上げながら地域材を組み入れるつくり手をいかに育てるかが、地域材普及においても大事である。既存住宅強化が中心政策である新政権の中で、第1集団を新築からリフォームへ(地域材を使ったリフォーム)に向かわせることも必要。
今後に向けて
川上から川下までのリアルな現実を理解し、生産者、流通、つくり手、さらにはマーケティングの専門家も含めた商流の把握、及び全体戦略の共有が必要である。その取りまとめは国ではなく地方自治体が行うべきであり、縦割りの発想では地域材普及は決しておぼつかない。ウッドマイルズについては、信頼性を高める研究は政策と絡めた世間のムードを高めるために必要ではあるが、リアルな活用戦略においては細かい説明や数値は不要である。輸入材と国産材といったシンプルな比較において有効で、そのメッセージをいかに多く露出されるかが最大の課題である。
(1日目の質疑応答より)
・COP15については関西の環境フォラムが各県でシンポジウムをやっている。先日奈良県のシンポジウムに参加したが、間伐材の炭素固定、つまり山林で腐らせず全て製品化することが注目されているようだ。CO2を排出し続ける林地残材の問題等を考えると、より緻密なウッドマイルズではなく、より大枠で取組むことも求められている。泥炭地のCO2の発生など、東南アジア材の使用が現地の環境破壊やCO2の発生を助長するという問題もあり、輸入材・国産材のウッドマイルズだけではなく、そのようなことまで踏み込む必要があると思う。
・CO2より影響の大きい、林地残材のメタンガス排出の議論はどうなっているか?
~専門でないので詳しくは分からないが、学会の委員会等でも検討中ではないかと思う。山で腐らせることはメタンガスの観点からは良くないことだが、いたずらに間伐材を出してすぐに燃やしてしまっては意味が無い。メタンガスはCO2より影響が大きいが発生に時間がかかるので、その時間のファクターを含めて検討が進んでいるようだ。
・建築基準法のいわゆる4号特例の廃止の時期はいつか?またその際、木材の品質に対する要求(JAS認定材等)はどうなるのか?
~あくまで私見だが、研究者、行政を含め4号特例を廃止すべきだと思っている人は多いが、時期は分からない。廃止しても確認審査機関が対応できないことが目に見えているので出来ないのが実情。4号特例が廃止された際、JAS認定材が要求されることはまず無い。一般流通材がほぼ全てJAS認定材になった時にはあり得るが、そうでない現状で、強行に製材、建築業者を滅ぼすようなことはしない。行政関係者の感覚はそのようであると思う。
・木質バイオマスについては、農水省のバイオマスタウン構想が各地で真剣に取組まれており、実例や関連する詳細情報がホームページにあるので、一度参照されたい。また、環境問題はやはり民間・個人のエネルギーによって具体例を示し、実証データや問題提起に呼応して輪を広げ、熱心に広がっている様々な活動が連携をして、政治的転換期である今、民が主導で官学を動かすという形がよい。実際の財政問題を含めこれらの問題意識を最も抱えているのは地方自治体でもあり、是非ご活躍お願いします。
9月16日(水)
第Ⅱ部:各地の取組から、現状の課題や可能性を学ぶ
①京都府の取組
京都府ウッドマイレージCO2認証制度の現状と課題、今後の展開について
柴田繁氏/京都府農林水産部林務課主査
京都府の森林木材の概要とウッドマイレージCO2認証制度
京都府は府域の75%(344千ha)が森林で、うち38%(126千)haの民有林人工林が成熟期に突入、林業担い手も減少している。府内産木材の需要拡大(H18年府内素材生産量:110千m3)、担い手の育成確保、森林組合の強化、が課題である中、府内産木材の需要拡大の一環として、H16年より「環境に優しい木材」を具体的に表現するウッドマイレージCO2を活用した、京都府産木材認証制度(ウッドマイレージCO2認証制度)を発足、運用している。制度の枠組みの決定や木材生産側である取扱事業体の認定は府が行い、認証木材の証明は民間の指定認証機関(京都府地球温暖化防止活動推進センター)が実施することを特徴とし、ウッドマイレージCO2計算書も指定認証機関が発行している。
認証木材の利用促進策、利用状況
認証木材の利用促進策として、木製ダム・型枠・道路の伏や柵など公共事業への利用促進、環境やさしい京都の木の家づくり支援事業(緑の交付金制度:1万円/m3、上限20万円/戸)、公共施設・街づくり・教育施設への利用促進(H21年度京の木の香り整備事業)を展開している。ウッドマイレージCO2認証制度の日程・登録事業体数は年々増加し、H21年8月現在、木材生産側である取扱事業体は191、設計者や工務店からなる緑の事業体は218になり、制度創設以降の証明書(計算書)発行実績は7,793m3、ウッドマイレージCO2削減効果はガソリン消費量換算で333,760リットル分、緑の交付金実績はH20年度で176件となっている。
制度の成果と課題
参加事業体、認証木材量ともに増加している。ウッドマイレージCO2という具体的な環境指標の明示により、京都府産木材を使うことが環境に良いという理解も浸透し、NPOの地産地消運動や、民間企業によるモデルハウス建設、銀行の優遇措置等へ波及している。今後の課題は、より一層の普及啓発、安定供給体制づくり、民間への需要拡大、品質向上などであり(現在の京都府産木材認証制度は、環境指標を組み込んだ産地証明制度であり、強度や乾燥等の品質規定は無い。)、制度関係者でつくられた京都府産木材認証制度運営協議会の中で検討が進められている。
京都府産木材認証制度運営協議会の取組
堀井誠史氏/京都府産木材認証制度運営協議会会長
取扱事業体と緑の事業体合わせて409社による協議会により、川上川下連携による木材供給や制度の運営協議を行っている。協議会は理事会制で、素材・加工製材・流通(一般製材)・流通(公共土木)の4つの委員会からなり、合法性の担保、品質基準、規格化、公共事業への導入提案など、各々の課題を検討している。(京都は南北に長いため、加工製材は北部・南部に分けて行われている。)
具体的な活動は、府への要望書の提出(公共事業への導入、緑の交付金の適用拡大など)、府公共事業の企業評点への認証木材使用の反映、緑の事業体を対象とした流通に関するアンケート調査実施など。アンケートは、環境付加価値は評価しているが、品質・価格・安定供給などに不安があるという結果。その他、木材の人工乾燥をテーマにしたセミナー開催、品質の規格化・標準化のための講習会企画、土木事業等で使用できる認証木材製品の積極的PRなどを行っている。
産地と環境性能の証明から地域材利用拡大のための総合的な取組へと拡大しており、また自主的に方向性を示す民主導の制度へと移行しつつある。今後は事業体皆の知恵を出し合い、多くの課題を解決していきたい。
②新潟県の取組
越後杉ただ今助走中!(地域材の普及-環境と品質)
二野宮雅宏氏/新潟県農林水産部林政課参事
新潟の森林・木材・建築の現状
新潟は全国6位の森林面積で、民有林は57万ha(66%)。全国同様に森林蓄積量が増加しており、特に高齢級の蓄積が多く、もっと使わなくてはと山側では考えてきた。県民アンケートでも県産材利用に対する意識は高い。県産材供給量はH19で約12万m3(素材換算、素材需要全体の25%)。
地域材普及策の展開(住宅への利用促進を中心に)
県産材利用促進として、越後杉ブランド、ひとづくり、公共的施設への利用促進、住宅への利用促進、県民へのPRを行っている。ひとづくりはとにかく重要で、現在は関係業者グループ、NPO、等の活動がある。関係業者共同のHPもある。また県で見れば、住宅は土木、施設は教育・警察が行っているが、これらが連携しないとまちづくりや住まいづくりは出来ないため、連携して取組んでいる。住宅への利用促進は、H13にいがたスギブランド材認証規定制定以降、土木、農林といった縦割りがある中でも発展し、現在は、市町村との連携による震災地域限定の越後杉で家づくり復興支援事業(越後杉購入費の1/2、上限100万円)、及びふるさと越後の家づくり事業(40万円補助+使用量・若者・UIJ加算)を行っている。基本事項として0.07m3/m2使用がある。家づくり事業のこれまでの実績は2,608棟(震災復興約1,738、全県対策約870)、約600社の工務店が参画している。事業の効果としては、越後杉の認知度UP、使用する工務店の増加、顔の見える関係の構築、丸太直送開始、品質への気づき、流通連携強化、があげられる。
地域材の品質(越後杉ブランド)
品質基準をH13に制定。認証工場は96社。基準制定に際しては、乾燥材需要の高まりを受けた県産乾燥スギ材、及び構造材の強度性能明示への要求を踏まえ、含水率とヤング係数の基準をつくり、乾燥しており狂いが少ない、含水率・強度性能が明確、県産スギである、という認証規定を制定。製材品(越後杉ドライ)、集成材(越後杉集成材)、合板(越後杉合板)の3種がある。基準値の決定はたいへんだったが、製材JASに準拠または簡略化し、構造用製材の含水率は(平角25%、その他20%)に落ち着いた。高品質材へのニーズが高まる中、製材JASは流通量が少なく費用もかかるため、独自の越後杉ブランド認証制度が出来た。利用促進のためスパン表も作成している。
身近になった環境~見える化戦略
「環境」という付加価値をどのように加え、伝えていくかが今後のテーマである。県独自のカーボンオフセット制度も現在作成中(年内には出来ると思う)。環境の見える化への取組の可能性を探るため行った、大工・工務店、施主という家づくり事業関係者へのアンケートでは、住宅を選ぶ際の環境貢献度の指標の影響は大きい、ウッドマイルズについては大工・工務店は5割が知っているが施主はあまり知らない、認証制度のCO2削減量の明示についての要望・共感は、施主より大工・工務店の方が多い、等の回答を得た。
最後に、今まで色々とやってきて、川上・川中・川下の連携の重要性や、支援の功罪を感じている。1人1人の動きが各地の次なる展開へ繋がると思っている。
地域事業者より~重川材木店の取組
重川隆志氏/(株)重川材木店取締役
重川材木店では、地域材住宅の建築(30棟/年)、および昨年3月から越後杉ブランドの製材工場である「加茂 緑の森・木材工場」を手掛けている。住宅建築では、京数奇屋・LOHAS・邸宅・現代民家「越後」の4つのメニューを基に展開し、匠塾による地域の人材育成(現在40人の社員大工のうち35名が地元)も継続的に行っている。新潟県中央の加茂市の里山に位置する製材工場は、2年前に操業停止した(旧)加茂ウッドシステム(協)の施設を購入し再稼動したもの。現在は7,000m3/年の丸太より、3,500m3/年の構造材、羽柄材を生産。来年は増員し、5,000m3/年(製品)の生産を予定している。また大工による木工教室や隣接地を利用した施主との交流田、蛍の再生などにも取組んでいる。
工場付近の造り酒屋の移転による土地を利用した、16区画による地産地消の家作り・街づくりにも取組んでいる。今年の5月の連休よりモデルハウス2棟の販売を始めた。販売チラシでは、地産地消の家づくりが地域の森林と地域の経済を育てます、をキャッチフレーズに、ポイントとなる越後杉、製材加工、匠の技、安田瓦、小京都・加茂、を紹介。森~製材~現場という、モデルハウスの木材のウッドマイルズは8㎞。区画内に構造材を展示しPRもしている。地域の木材と地域の職人による家づくりを心がけている。
第Ⅲ部:意見交換会
特別ゲスト:池渕雅和氏/林野庁林政部木材利用課長
コーディネーター:野池政宏氏/住まいと環境社代表
はじめに、池渕雅和氏(林野庁林政部木材利用課長)より、「日本の森林資源蓄積の充実や地球温暖化防止における間伐材未利用(2千万m3/年)の問題などから、国産材利用推進を、住宅は勿論、製紙、公共施設、木質バイオマス燃料等、様々な面考えていかなければならない。その際重要なのが、国産材をいかに差別化しPRできるかで、一つは合法性証明制度の信頼性向上、もう一つは環境に優しいをキーワードとしたCO2排出量の見える化で、昨年来林野庁でも検討会を進めている。鉄等の他の資材との差別化、外材との差別化があるが、外材との差別化においてはウッドマイレージが非常に有効になるのではと考えている。ウッドマイレージを用いた国産材の差別化を、皆さんの方でも普及して頂きたい。」とのご挨拶を頂き、意見交換会が始まりました。
環境指標について
■講演で言っていたCASBEEが使い難いとは?他の環境指標との連携とは?(会場)
■設計実務者の一意見として、CASBEEは評価項目の幅がかなり広く差別化のツールとして使い難い。また環境指標の連携については、たくさんある指標を全てやるのは困難で、かつ中には相反するものもあると思うので、今後ある程度の「連携」が必要である。(滝口)
■環境に優しいことを実務の場面では、施主にどのように説明しているか?またその反響は?(野池)
■長期優良住宅を手掛けているが、一般の2.5倍の木材を使うことで炭素固定が2.5倍、断熱性能をQ値で示す、長寿命のためのメンテナンス計画等を説明している。施主の反応も大きいと思う。(会場)
■長期優良住宅先導的モデル事業をやっているが、それではウッドマイルズをはじめとする性能明示を義務付けている。施主から要求されることはないが、これらを伝えると、なるほど、と信頼性が向上するように思う。(会場)
新潟の取組について
■土木・建築と農林の連携はとても難しいと思うが、何がきっかけとなったか?(会場)
■土木との連携は間伐材利用に絡めて比較的容易だったが、建築の方は高い壁があった。やはり情熱と継続、そして汗。決め手となったのは、営繕の標準仕様書にJASの指定があり、そのJAS基準並である説明、了解が得られたこと。(二野宮)
■総合的な計画は当初から考えられていたか?(野池)
■状況に応じてその都度変更等があったが、いつもその先にあるものを見ようとする姿勢が大切だと思う。(二野宮)
地域材の品質、自主基準について
■基準に問題があった時、国であれば改善や補償も可能だが、自治体にそれができるかどうか、日本農林規格という国の基準がある中で何故地域の自主基準が必要なのかが疑問。地域性が大切であることは分かるが、地域の境目では確認申請などでも、こっちはいいがこっちは駄目など、様々な弊害が想定される。国民にとっても国で統一した方がいいのではないか。(槌本)
■現状に即した国の統一基準はすぐには作られないので、だから今は自主基準という側面もあると思う。(野池)
■新潟ではJASをベースにしているが、コストも含め自社のみでは対応できない県内の中小事業者に対して、施主・工務店への品質明示を通じた製材業界の強化を目的とし、県が基準をつくり、運用は業界に任せ、責任は業界が取る、という体制でやっている。(二野宮)
■京都では、まさに今品質基準づくりをしている状況で、その過程の中で、業界における品質基準の必要性への認識を高めていく、生産者と利用者のマッチングの中で基準を決めていく、といったことも重要な取組の一つだと思う。またJASは否定しないが、現状のJASほど厳しい基準が必要かどうか、天然乾燥は無理なのか、など議論する必要があると思っている。(柴田)
■100の製材所があれば、店の伝統などから100の基準があるのが現状である。ただユーザーから見れば好ましい状況ではない。JASをベースに京都の協議会としてどのような基準が作れるか、作れなかったとしても何もしないのは良くない。取扱事業体と設計者・工務店の連携によって何か一つ作り上げたい。(堀井)
■工務店としては、あまり厳しい品質は困るが明確でないのも困るので、ある程度の品質基準は必要であると思う。ただ、地域材に対してのエンドユーザーの感覚は、「品質」ではなく「環境」であることが多いので、品質のみに固執しすぎないほうが良いと思う。(重川)
■当然「環境」が話しやすいが、つくり手の責任として「品質」はしっかりとやらなければならない。まずこれは駄目という品質の最低レベルを決めた方がよいと思う。例えばスギの含水率はどのくらいが許容範囲か?(野池)
■設計者として木材の段取りも行い、含水率も検査している。設計者はよく特記仕様書に含水率25%と書くが書いて終っている。長らくやってきて芯持ちのスギ材で実際に25%以下の材は見たことがない。本当に25%以下とするには、何度も乾燥機に入れてCO2の発生量を増やすことにもなる。(会場)
■設計者の自主基準として、手刻みの場合は25%、プレカットの場合は20%を目指すこととしている。乾燥方法も指示し、検査も全数行っている。小さな製材工場では始めから25%は出来ないと断られるところもあるが、全部出来るという工場もあり、ビギナー設計者を増やすためには、対応可能な工場が地域にどんどん出来るといい。(会場)
■日本農林規格では多少のOUTを認めている。全数検査ではなく抽出検査でもある。また断熱性による住宅のエネルギー量(木材の乾燥収縮による隙間)、耐震性確保による超寿命(木材の強度)など、総合的に理解した上でウッドマイルズに取組まないと意味が無い。さらに材料だけで住宅の品質が決まるわけではない。今の農林規格は製造基準だが、建築設計で必要な特性値が担保されるような要求性能に基づいた基準に変えていくべきである。ただ何故すぐに対応できないかはデータが無く研究も少ないからである。(槌本)
最後に
■日本の環境政策は住宅が中心となっている感があるが、公共建築こそ、もっと省エネや木材利用推進を行うべきであると思う。大枠をしっかりとつくり、その中で我々の活動の位置付けが、より鮮明にならなければいけないと思う。(会場)
■CO2排出量は住宅の運用時が7割なので、そこを押さえずに地域材のみの議論をしても意味が無く、全体の中で各々の取組の位置付けをしっかりと認識して活動していくことが大事。ただ全体を押さえていくことは一般消費者にとって、より分かり難くなることでもある。分かり易さと正確さという、相対するものをどのようにしていくのかが、今後の戦略のテーマにもなってくると思う。ウッドマイルズ研究会でも、今後多くの関係者に呼びかけ、正確かつ分かり易い指標をいかにつくって行くかについて、声を上げる場所にしていきたい。(野池)
■強度や含水率など具体的な許容値について、色々な場所、色々な人達と議論し、連携・統合により、全体の具体的な基準づくりへの動きが展開すると良いと思っている。例えば表示マークなども、研究会を通じて提案していけるとよい。住宅の環境性能表示については、個人的には、自立循環型住宅(運用時の省エネ)+ウッドマイレージCO2(国産材・地域材)+認証木材、であると思うので、これらの見せ方についての検討や議論が研究会を通じて出来ればよいと思う。(野池)
- 作品名
- セミナー2009
- 登録日時
- 2009/10/01(木) 15:00
- 分類
- 2009年度