ウッドマイルズセミナー2008in 京都~環境指標と家づくりで地域の木を生かす!
日時/2008年9月18日(木)13:15~16:45、9月19日(金) 9:00~11:50
場所/京都府職員福利厚生センター3階第1会議室
主催/ウッドマイルズ研究会 共催/京都府
後援/(社)日本建築士会連合、(社)全国木材組合連合会、(独法)環境再生保全機構、(財)日本住宅・木材技術センター、(社)京都府建築士会、京都府地球温暖化防止活動推進センター、京都府産木材認証制度運営協議会
9月18日
【第Ⅰ部】基調講演
『地域の木で、地域の技で、地域の家を 造り、守り、育てよう』
藤本昌也/(社)日本建築士会連合会会長、ウッドマイルズ研究会会長
『環境指標による地域材の利用推進』
藤原敬/(社)全国木材組合連合会常務理事、ウッドマイルズ研究会代表運営委員
【第Ⅱ部】環境指標の実践現場から
『京都府ウッドマイレージCO2認証制度の現状と可能性』
柴田繁/京都府農林水産部林務課主査
『大阪府木づかいCO2認証制度の試み』
三宅英隆/(社)大阪府木材連合会専務理事
『ウッドマイルズとカーボン・オフセット』
伊東真吾/京都府地球温暖化防止活動推進センター事務局長
9月19日
【第Ⅲ部】地域材による家づくりの現場から
『彩工房の家づくり(京都)』
森本均/(株)DAC代表取締役
『地域材流通コーディネーターの役割とその必要性(兵庫)』
安田哲也/(有)ウッズ 取締役・建築家
【第Ⅳ部】意見交換会
(コーディネーター)白石秀知/京都府南丹広域振興局農林商工部農林整備室
原油価格の高騰や中国の消費拡大、ロシア材の関税などにより輸入材が手に入り難くなりつつある中、国産材や地域材利用の重要性がさらに高まっていると共に、温室効果ガス削減についての関心が広がり、政府がカーボンフットプリントなど環境指標を使って環境負荷の「見える化」推進を始動し、二酸化炭素の吸収源としての森林育成、木材の輸送エネルギーの削減、木造建築の炭素貯留など、環境指標を使って地域材を推進する条件が整ってきました。
各地の地方自治体や地域材による家づくりの現場では、環境指標の取組を始め、山と町のネットワークづくり、地域材コーディネートなど、地域の山や木材の活性化および地域材需要・販路拡大について模索されています。ウッドマイルズセミナー2008in京都は、環境指標と家づくりに焦点を当て、実際の現場からの報告と参加者を含めた意見交換会を通じて、地域の木の今後の可能性を探るため開催されました。
セミナーには、各地の自治体担当者、林業・木材業関係者、建築設計者・工務店、その他関係者・学生など、地域の木に関する幅広い参加者、総勢72名が集まりました。2日間に渡ったセミナーの概要を以下に報告します。
『セミナー開会挨拶』
『研究会活動の推進にとって京都は最も重要な場所であり本日も多くの方々にお集まり頂きお礼申し上げます。今年6月に前会長熊崎氏に引継ぎウッドマイルズ研究会の会長になりました。私は建築士として、特に木造住宅にはこだわりを持って設計してきました。地域材を使ってちゃんとした木造住宅を作るために最も重要なのは川上と川下の連携ですが、なかなかよい形ができず苦労してきました。これを解決するキーワードに地域材利用の根拠を科学的に明示するウッドマイルズがあり、研究会では、ウッドマイルズをベースに各地で川上と川下の良い連携が実現化するよう支援していきたいと思います。また、本日は自治体の森林木材関係の方々も多くお集まり頂いておりますが、地域材利用は最終的に発注者が納得しなければできません。今後は建築行政の方々にも集まっていただき、発注者も含めた地域材利用推進の支援にも努めていきたいと思います。2日間に渡るセミナーを是非成功させたいと思います。(藤本昌也/ウッドマイルズ研究会会長)』
『本日は九州から長野、自治体から森林木材・建築関係者と、幅広い方々にお集まり頂きお礼申し上げます。全国で地元材による家作りが推進されていますが、京都府ではウッドマイレージCO2認証制度として京都府産の木材を京都府で消費することが輸送エネルギーを削減できるという点に焦点をあて、その削減量を明示し府内産木材利用を推進する施策を行っています。定性的だけではなく定量的に地域材を使う意義をユーザーの方々に示すことは、とても意義のあることです。平成16年度に始まった当制度の認証実績は約4千m3となり、木材生産者である取扱事業体は167社、設計事務所・工務店等の木材利用者であるみどりの事業体は190社になっています。平成18年度から始まった緑の交付金は昨年度末までで123戸、今年度はそれを上回る127戸の申請に至っています。また一方で企業と府民によるモデルフォレスト運動も活発化しており、今後はモデルフォレスト、ウッドマイレージ双方の関係者が連携できるような取組もしていきたいと思っています。今日明日のセミナーで是非ヒントを得て、各地の実践に繋げて頂けたら幸いです。(小林藤夫/京都府農林水産部林務課長)』
9月18日
【第Ⅰ部】基調講演
『地域の木で、地域の技で、地域の家を 造り、守り、育てよう』
藤本昌也/(社)日本建築士会連合会会長、ウッドマイルズ研究会会長
国産材の家づくりとしての民家型構法の提案
木造住宅を考えるきっかけとなったのは23年前の友人の木造住宅の建替えで、高度経済成長期の住宅として公庫も受けている一般的な築10年にも満たない大壁作りの家の柱や土台がボロボロであったことである。国もそれまでは産業の創出としてハウスメーカーへの支援が主であったが、在来住宅への支援を一切してこなかったという反省も踏まえ、建設省が85年に「家づくり85」という提案競技を行い、私も全建連とチームを組んで設計者として提案を行った。また同時期に林野庁でも低迷する国産材対策として、国産材によるモデル住宅「国産材ハウス」を造る計画があり、当方へ設計依頼があった。その時の提案が「日本の木で、日本の技で、日本の家を」というものであり、今はこれを地域に置き換え、各地域でこれを創り上げていく必要があると思っている。モデルハウスには、柱梁を見せる真壁造り、伝統的な継手仕口、既成材の部品化による生産性の向上、自然素材の多用、土台下の通気を取るネコ土台、板の落し込みによる壁や床などを盛り込み、私達の家作りの原形(民家型構法住宅)となった。
公営住宅における民家型構法の展開
その後この構法をいかに普及するかが課題であったが、ハウスメーカーが大きな力を握る中で、地域工務店の仕事も増えず、国産材は高い含水率など扱い難い等、多くの問題がありなかなか広まらない中、地方自治体が率先して行うべきだという声が各地で高まった。当時集合住宅や街づくりを主に行っていたこともあり、兵庫県住宅供給公社の街づくりの中で10棟を提案することが出来た。93年には長崎県諌早市の公営住宅にて裏山の木による住宅造りを提案、森林組合との連携で設計段階から木材を発注した。98年岩手県遠野市では、都会の住宅への地域材供給体制の整備として、国の助成も受け大規模な木工団地のプロジェクトも行った。住宅供給公社は地域の住宅造りで主力となるべき団体であり我々も高く評価していた。ただ当時は良かったがバブル崩壊後の解体、そして昨今の民営への流れは、日本の住宅全てを考えた時に本当に良いのか、たいへん疑問をもっており、質的な公共住宅と商品としての民間住宅の間に、ヨーロッパでは一般的な社会住宅というものを再構築すべきだと思っている。
地域ネットワーク型家づくりの提案
一方で98年より広島地域で地域ネットワーク型の家作りを展開している。当時広島で発足した木の香る家づくりの協議会がきっかけとなり、設計5社、素材生産1社、製材1社による木の香る住宅工房が立ち上がった。協議会メンバーでもあった生協のサポートを受け住まいのセミナーを開催し、スタート3年目から仕事の依頼が来るようになった。現在までの実績は128戸だが、この活動で重要なのは住宅づくりに設計者が関わっていることで、施主の個性を引き出す設計者による丁寧な質の高い設計というものが住宅づくりには欠かせない。また地域材による家作りを行う上で、最もやりやすい方法であり、この活動では葉枯らし+自然乾燥材の安定供給のネットワークも誕生した。
東京でも地域材による家づくりを
東京のような大都市かつ地域自体が見えない場所では、地域による家造りというものはたいへん難しい。そんな中、都知事の東京に地域材で地域の大工で造る家がないのはおかしいというTV発言をきっかけに、東村山の都営住宅建替えの際、高層化により余った土地を宅地開発し、100戸をハウスメーカーが、残りの100戸をプロポーザルによって選んだ4事業体が住宅を建てるという事業が行われた。販売等も含む我々のチームは、遠野からの木材供給による山村と都市を結ぶ木の香る家を提案し採用された。プロポーザル用件であった、通常価格より3割減(50万/坪)はたいへんであったが、今年度で25棟全ての建設が終了する。
木造住宅建築憲章
我々のこのような家づくりは、以下の木造住宅建築憲章としてまとめられる。
1.木造住宅建築は、森林保全と資源の循環利用に資するように、外材への依存は最小限に留められ、“地域材”、“国産材”は最大限に活用される(資源管理)
2.木造住宅建築は、シックハウスを克服すべく、新建材は極力抑制され、木、土、石、紙等の“自然素材”によって構成される(健康住宅)
3.木造住宅建築は、丈夫で長持ちする骨太な“木組み”によって架構され、次世代を越えて使い続けられる価値ある社会資産として維持される(長寿命)
4.木造住宅建築は、地域に根ざした合理的な生産技術と体制のもとで建設され、適正な価格の住まいとして安定的に供給される(適正価格)
5.木造住宅建築の生涯のエネルギー消費は最小限に留められ、自然エネルギーや未利用のエネルギーは最大限に活用される(省エネルギー)
6.木造住宅建築は、地域の風土、歴史を尊重しつつ、新しい文化として創造され、良好な地域環境として次世代に受け継がれる(地域環境)
そしてこれらは全て、住まい手の知的プライドになる。ユーザーにいかに理解してもらえるかが最大の鍵であり、ユーザーが動けば、川上川下の問題も直ぐに氷解すると思っている。
『環境指標による地域材の利用推進』
藤原敬/(社)全国木材組合連合会常務理事、ウッドマイルズ研究会代表運営委員
環境負荷の「見える化」とウッドマイルズ
ウッドマイルズは木材輸送に着目し、大きく2つのことを明らかにしてきた。1つは我が国の木材輸入の特異性であり、輸送量に輸送距離を掛け合わせたウッドマイレージは米国の4倍にもなる。2つは輸送過程のエネルギー(排出CO2)の明示であり、製造エネルギーが極めて少ないことで知られる木材も、欧州材においては輸送過程に製造の数倍のエネルギーをかけている。政府においては阿部総理に引き続き、サミットに向けた福田ビジョンのCO2排出の見える化において、低炭素社会に向けた国民一人一人の責務のため、CO2排出の見える化が重要とされ、カーボンフットプリントやフードマイレージについて言及されている。カーボンフットプリントについては、制度の実用化・普及推進研究会が発足し、12月のエコプロダクツ展にて各社がサンプルを出してくる予定である。林野庁においても木材利用に係る環境貢献度の見える化検討会が発足し、当会からも参加予定である。ウッドマイルズは産地から消費地までの木材輸送距離の削減による環境負荷の削減と森林管理の信頼性の向上を目指しているが、政府の「見える化」の動きの中や各自治体の政策の中で、研究会の蓄積が役立つ時に来ている。
ウッドマイルズ研究会の活動と環境の指標
フードマイルズを前史とし、岐阜県立森林文化アカデミーでの活動を経て誕生した研究会では、関連指標の開発、普及・ネットワークの形成、調査研究という3つを活動の主軸としており、現在会員数は百数十名の組織である。自治体を中心とする木材生産側と、建築を中心とする木材利用者側の両関係者により推進活動を行っている。指標には、ウッドマイレージ、ウッドマイレージL、ウッドマイレージCO2、流通把握度、という4種があり、木造施設や住宅等に対してウッドマイルズレポートという評価冊子の発行も行っている。現在は、木材輸送のみのウッドマイルズだけではなく、森林木材に関する他の環境指標の分野との連携が、地域材の総合的な推進のための重要課題としており、炭素固定も含めた木材の各段階のカーボンの積算等の試みも始めている。
地域材の利用推進とウッドマイルズ
都道府県産材認証は現在38都道府県で行われており、利用住宅への補助を併用している所も多く、林務・建築というオール県庁での推進が進んでいるが、公的な機関の主導から民間への波及へ広がっているかという点については少し疑問であり、県産材というメッセージには限界があるのではと思っている。
ウッドマイルズを用いると、例えば地域材住宅を建てた場合、一般的な木材の利用にくらべ、ガソリン何リットル分節約できるという環境貢献の明示をPRできる。各都道府県産材の輸送距離がより精密になれば、より確実なPRも可能となるので、是非各地で情報収集を行ってもらい、またその収集過程においての普及効果も期待できると思う。各地の県産材利用運動の趣旨は、地域の森林の問題を地域で木材を使うことによって解決するというものだと思うが、県境の問題や、木材生産県と大都市消費県を繋ぐ際など、県産材というだけでは限界がある。ウッドマイルズを使うことによって、県境を越えた、地球環境という枠組みの中での推進が展開でき、環境にこだわる消費者を結ぶツールになり得ると思っている。
最後に、今年度、木づかいのカーボンストック減税というものが林野庁で打ち出されている。住宅などに一定量の木材を使用した場合に所得税を控除する、合法性を証明した木材に限る、等色々と検討されているようだが、この合法性の確保という点もとても重要であるので、今後留意して頂きたい。
【第Ⅱ部】環境指標の実践現場から
『京都府ウッドマイレージCO2認証制度の現状と可能性』
柴田繁/京都府農林水産部林務課主査
京都府の森林・林業の現状と課題
府域の75%が森林でその人口林率は38%、126千haである。蓄積も年々増加し前年比で56万m3増加する一方で、林業担い手の減少と高齢化も進み現在50歳以上の割合は58%となっている。素材生産量は110千m3で府内総需要の2割程度である。このような状況の中で、木材の需要拡大、担い手の育成確保、森林組合の強化、を3つの大きな課題とし、木材の需要拡大の取組の1つが、ウッドマイレージCO2認証制度である。
ウッドマイレージCO2認証制度の概要
ウッドマイレージCO2認証制度とは、京都府産木材の産地証明に、木材輸送時のCO2排出量を明示しCO2削減効果を数値で示すという環境指標を組み込んだ木材認証制度である。京都府が制度の枠組みを決め、素材生産・市場・製材加工・流通業者を、取扱い事業体として認定し、一方で認証木材の証明は透明性を高めるため、府が認定した指定認証機関(京都府地球温暖化防止活動推進センター)が実施しており、緑の設計事務所・工務店という使用者が認証を機関へ依頼し、CO2計算書と共に証明を発行する仕組みとなっている。認証木材の使用事例には、木製治山ダム・仮設防護柵・木工沈床といった土木や、環境にやさしい京都の木の家づくり支援事業に合わせた住宅への利用があり、住宅では認証木材1m3あたり1万円(上限20万円)の交付金も出している。
ウッドマイレージCO2認証制度の成果
認証制度参加事業体数が増加し、現在では取扱事業体が167、緑の事業体が190と、多くの事業体に参画して頂いている。認証木材の証明件数・木材量も、制度創設から現在までで、150件、4,059m3となり、ウッドマイレージCO2削減量は合計で427,387㎏-CO2(ガソリン179,502リットル分)である。木の家づくり支援事業の実績は、H18:40棟、H19:83棟、H20:150棟(予定)となっており、府全体の年間着工戸数(約8千棟)に比べるとわずかな数ではあるが、徐々に増えており、セミナーイベント等でも制度のPR活動を行っている。また、地域NPO活動との連携や彩工房のモデルハウスへの採用、地方銀行による住宅融資優遇商品への利用などへも波及している。
ウッドマイレージCO2認証制度の可能性と課題
制度の可能性としては、ウッドマイレージCO2計算の仕組みづくりがトレーサビリティ確保に繋がること、世界共通のCO2排出量という見える環境指標によって森林・林業問題を国民共通の問題として捉えることができること、大規模CO2排出企業への利用(京都府では大規模排出企業にCO2削減を義務付けている)など新たな分野における利用、等があげられる。
一方で、制度の普及啓発のさらなる拡大、認証木材の安定供給・需要拡大、認証木材の品質確保(現在の制度では品質は認証していない)、合法性の確保、他府県との制度の連携、等が課題としてあり、制度の向上を目指す京都府産木材認証制度運営協議会や緑の事業体等の関係者との連携を図りながら、課題の解決を図っていきたい。
(※ウッドマイレージCO2認証制度、詳しくは京都府地球温暖化防止活動推進センター認証制度のページ)
『大阪府木づかいCO2認証制度の試み』
三宅英隆/(社)大阪府木材連合会専務理事
大阪府木づかいCO2認証制度創設の背景
京都議定書では森林のCO2吸収が我が国の温室効果ガス削減量にカウントされているが、伐採後の木材は排出とみなされ、大気中のCO2と同じ扱いになっている。木材に関わる我々は、木質製品の炭素固定量を明確化し、地球環境全体に対する木材利用の貢献を総合的に評価し社会に広報していく必要がある。大阪府では昨年8月に放置森林対策構造計画が策定され、森林所有者の努力だけでは解決できない放置された森林の改善に向けた具体的な整備目標や関係者の役割の明確化が取り決められた。この対策の一環として、特に企業のオフィス家具の木質製品化を促進するため、大阪府木づかいCO2認証制度、及び大阪府木材利用クラブを創設し、木づかいでストップ地球温暖化を合言葉に、府民ぐるみで木材利用や森づくりを行っていこうというものである。
大阪府木づかいCO2認証制度創設の概要
今年2月にスタートした大阪府木づかいCO2認証制度は、大阪府木材利用クラブの会員企業が製造販売する木材製品のCO2固定量を大阪府が認証し、認証製品を購入した企業等に対して、大阪府がCO2固定量の認定証を交付するものである。木材製品の購入利用による環境への貢献度を明確化することで木材製品の利用拡大から森林保全、地球温暖化防止へと波及させることが制度のねらいである。大阪府木材利用クラブは、(社)大阪府木材連合会が事務局となり、現在24社が会員となっている。PR活動や認証事務、制度の実施検討が主な活動内容である。現在登録されている認証製品は木製ロッカー、机、プランターなど49製品である。今年度も10月7日~12日にかけて、近畿中国森林管理局にて、製品の展示会(オフィスに木の香とやすらぎを)を開催する。
地球温暖化対策としての木材利用の新しい動き(英国政府、欧州の動き)
英国では、全CO2の排出量の5%が建築材料から、人口1人あたり毎年6トンのCO2排出、2050年までにCO2排出量を90年比60%削減、等の事情から、2007年のグリーンガイド第3版において、建築材料の比較評価を行い、木材を使え、という流れになっている。グリーンガイドでは、LCCO2に加えて、化石燃料の消費量、人やエコシステムへの有害性、リサイクル性等を総合評価し、各々の建材に対してA~Cのランク付けを行っている。木材使用が特に推奨されている部位は、外装、屋根、間仕切壁、窓・ドア、外構材である。グリーンガイドはBREEAM(国の建築物環境評価基準)やサステナブル住宅法(全ての新築の環境評価を義務化)の評価基準として活用されている。また2012年のロンドンオリンピックをターゲットとして、国をあげて木材推進キャンペーンが展開されている。欧州の企業レベルではロードマップ2010が策定され、木材利用成長率を現状1%から2010年に4%にまで引き上げる目標が打ち立てられている。CO2削減効果は年間1.5億トンとされている。欧州各国ではマンションやホテル、オフィス、レストランといった施設の外壁への木材利用事例が増えており、日本でも徐々に使用事例が増えている。京都にも木製外装のオフィスビルが誕生した。木材利用が悪であるという企業CMも登場している日本では、関係者の利害関係等をどのように調整していくかが大きな課題であるが、2016年の東京オリンピックへの動きもあり、国レベルでのグリーンガイドの策定やロードマップ2016の提言等が必要である。
(※大阪府木づかいCO2認証制度、詳しくは大阪府環境農林水産部みどり・都市環境室
ページ)
『ウッドマイルズとカーボン・オフセット』
伊東真吾/京都府地球温暖化防止活動推進センター事務局長
カーボン・オフセットとCDM
カーボン・オフセットとは、企業の経済活動や個人の日常生活において、避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について(例えば家族4人でヨーロッパ旅行をすると、それだけで家族が1年間で排出するガスと同等のガスが排出されることになる)、できるだけ排出削減の努力はするが、どうしても排出される分については、その排出量を見積もり、排出量に見合った削減活動に投資すること等により埋め合わせするという考え方である。オフセットにおける削減活動は、単なる減少(例えば工場の閉鎖など)では駄目で、削減活動の結果として減った(削減プロジェクトの追加性)ことの証明が必須となっている。現在、日本のカーボン・オフセット発行のほとんどが、京都議定書のCDM(京都議定書枠組み外の途上国での削減により、削減分を先進国がクレジットとして得る)によるものである。CDMのクレジットはCERと呼ばれ、国連CDM理事会による厳しい審査を経て発行されている。CDMは結構厳しく認められるものも限定されている。現在は、メタンガス発生回避、再生可能エネルギー、省エネルギー、フロンガス等の破壊、森林吸収減、という類型があるが、森林は滅失すると吸収しなくなるため、一定期間で失効という限定付きとなっている。CERを取得した企業は最終的に日本の排出枠にCERを寄付するため、CER取得のための資金調達として、カーボン・オフセット商品を手掛ける事例が増えている。例えばローソンでは、2010年までに1店舗あたりの排出量を10%削減する目標を決め、達成のための不足分を補うためカーボン・オフセット商品の購入販売を実施している。今までその商品を買っていなかった人が買うと消費が増え、オフセットにはならない、という議論もあるが、各社でこのような試みが始まっている。
VER(自主的な排出量削減)とウッドマイルズの可能性
国連ではなく、国内で自主的に審査・認証されるクレジットで、環境省・経産省を中心に進められている。先行事例として高知県の間伐材利用がある。間伐材を集めチップ化し、木質バイオマスによる発電を行い、石炭燃料の削減分によるクレジットを創出し、東京の企業に売る、というプロジェクトが現在進んでいる。農家の使用燃料を石油から木くずに変える、木質ペレットへの転換、輸送手段の転換、などがVERクレジットとして認められる方針が打ち出されているが、ここでウッドマイルズにも可能性が見えてくる。今までのウッドマイルズはグリーン調達のための指標であり、平均値との比較という目安的なものであるが、輸入木材についてある程度正確なトレーサビリティの確保が可能であれば、輸入材のウッドマイレージCO2から地域材のウッドマイレージCO2を差し引いた分をクレジットとして売却し、そのために必要な設備投資を得るということも、可能性があるのではないかと思う。ただ、ある程度の継続性も求められるため、個人が1回だけ家を建てるというものでは難しく、物流用のパレットや梱包資材、商業施設のエクステリアや家具などは、南洋材等から地域材への転換によるクレジットを納入先の大企業が買う、そして削減量を認証する、という仕組みも、可能性があるかもしれない。カーボンフットプリントの方でよく話しに出るサッポロビールでは、ほとんどが契約農家栽培のため、仕組みがうまく作れるという現状もあり、木材についてもある程度確定された産地であればよいが、市場を通したものは少々難しいかもしれない。当方でも今後、可能性のあるものを少しケーススタディーしていきたいと思っている。また木材とは直接関係がないが、当センターでは、京都府のプロジェクト参加家庭が減らした分を府内の排出企業に買ってもらうことで、参加家庭が地域で使えるポイントを創出する仕組みづくり(京都エコポイントモデル事業)も行っている。
(※京都エコポイントモデル事業、詳しくは京都府地球温暖化防止活動推進センター京都エコポイントモデル事業のページ)
9月19日
【第Ⅲ部】地域材による家づくりの現場から
『彩工房の家づくり(京都)』
森本均/(株)DAC代表取締役
京都の木の家づくりのはじまり
本社は世界遺産に囲まれた京都宇治市で、大正10年に創業。先代までは木造住宅も手掛けていたが色々とトラブルも多く、私の代になってからは木造住宅はやっていなかった。最近も特にそう思うが、木造住宅はお客様との距離が近いという点が他の建物と異なる点である。当時の木材は乾燥も悪く扱い難いことから一時期木造住宅をやめていたが、シックハウスの問題も起こり、改めて木の住まいの価値を見出し、6年前から彩工房として木造住宅を始めるに至った。そして京都府産認証木材利用の第1号として、2006年に二条のモデルハウスを建設、そこから京都の木の家作りがスタートした。昨年竣工した住宅では、京都大学と進めている研究会関係の施主所有の山林の木材を使用、不足分は新月伐採の木材で補い、天然乾燥にて建てた。ウッドマイレージCO2認証も取得している。環境問題を主としている研究会では主に産業廃棄物がテーマで、木材にたどりついた1つの理由でもある。
京都府産認証木材・ウッドマイレージCO2について
京都府産木材の場合、通常の木材に比べ材の納品に1.5倍くらいの時間がかかり、単価も若干高くなる。これをどうしていくか、今後の課題である。内装材については、なかなか京都府内でまかなうことが難しく他の産地に頼らざるを得ない状況である。最近では、天然乾燥材のストックにも挑戦し、府内産木材の安定確保に繋がるよう努めている。薪ストーブによるバイオマスの利用拡大も行っている。認証木材の使用量については、2008年度は予定を含め239m3、CO2削減量24,302㎏という値である。府内産の利用にはお客様の理解が必要なので、セミナー等を開催し、温暖化防止や木材の環境貢献、近くの山の木材の意義やウッドマイレージCO2をPRしている。
京都の木の家づくりの実践について
京都府産木材の使用だけで住宅は建たない。他にも多岐に渡る要求があり、性能、暮らし、健康、環境というものを総合的に捉え、供給していく必要がある。また、今まで京都府産木材を進めて断られたのは1件だけであったが、吉野杉で建てたいというお客さんはいても、京都の杉で建てたいとはなかなかならない。そこでウッドマイレージCO2の話や、お客さん達といっしょに植林をする森林教室や製材所見学会の開催など、多面的なPRを行い、京都の杉を理解してもらう取組を行っている。一方で住宅の供給者側自身もまだまだ勉強不足であるため、プロ向けの鴨川建築塾も行い、地域工務店がより木の事等を学ぶため、設計者等を招き年間10回開催している。また、より多くの方々へ広報すべくTV放映(毎週月曜夜、3分間)も始め、京都の木の家づくりをPRしている。いずれにせよ、CO2削減量の明示や認証は、供給者の信頼性にも繋がるものであり、今後は京都府の力もお借りしつつ推進していきたい。
(※TV放映(KBS京都テレビ、彩工房提供「森と人と」第1話:京都の木でつくる家~ウッドマイレージCO2認証制度、ほか、詳しくは彩工房メディア関連のページ)
『地域材流通コーディネーターの役割とその必要性(兵庫)』
安田哲也/(有)ウッズ 取締役・建築家
ウッズの概要
兵庫県丹波市という山側に拠点を置き、京阪地域に対して山の資源を届ける仕事をしている。ウッドマイルズに直接関わってはいないが、木材のトレーサビリティという観点から、森と町を1対1の対応で繋ぐ取組を行っている。具体的には木材販売・地域材流通コーディネート、建築の設計監理、工務店の販促ツールの企画制作が業務で、木材コーディネーターである野口と共に活動している。
立木販売システムにおける戸建住宅における木材コーディネート
立木を直接エンドユーザーに購入してもらい家を建てる仕組みである。兵庫はブランド材が無く、販売ツールがなかなか無い地域で、他府県の原木も大量に流入する地域である。最近は、国産材というだけではなく、木材利用がどこの森に寄与するのかまで求める施主も増えつつあり、市場を通した木材ではトレーサビリティの確保が困難であるため、直接施主と森を繋ぐという発想である。しくみには、健全な、健康な等の意味を持つ、sound woodsという名称を付けた。現在は4名の森林所有者に参画頂いており、各々の森林資源を詳細に調査し、位置、胸高直径、本数をデータベース化している。森林のCO2吸収と火力発電所のCO2回収コストから算出された定価(スギ:7,358円/m3、ヒノキ:9,291円/m3)を明示して販売しているのも特徴である。また、木材販売コーディネーターにより、従来の木材供給では繋がり得ない、森林と消費者との情報の流れを直接結ぶ仕組みである。住宅供給は1社独占ではなく、他の設計や工務店も巻き込み、見学会、セミナー等も開催している。現在は、建築で必要な部材を入力すれば対応する山の立木の情報が直ぐに得られるデータベースの構築の検討も始めている。
(※sound wood(s)、詳しくはサウンドウッズのホームページ)
地域材利用による森林の保全育成を目指した公共木造施設建設木材コーディネート
黒田庄町岡交流施設建設事業における地域材調達の試みを紹介する。林道整備から出る支障木の有効活用という森林整備事業と、公共施設建設事業の2つの事業が組み合わさった事例で、施設は500㎡程度、総材積142m3の内、町からの支給材は125m3であった。どこの森の木をどこで加工し、どの部位に使うかという木材利用フローチャートの作成と実現が使命であった。取組の中では森林資源調査にもとづく自治体所有森林資源活用コンサルティングと、特定の森から特定の建築への木材利用を可能にするために木材納入部分を分離させ、木材コーディネーターによる調達監理を行った。ウッドマイルズは利用者にとって分かりやすい環境指標であるが、さらに、品質管理、スケジュール監理、流通コーディネートという側面も整備しないと、実際の地域材供給は難しいと思っている。我々の業務の意義は、発注者と供給者の間で、森の資源に即した無理の無い地域材調達をコーディネートすることろにあり、各地域で木材コーディネートの人材が求められると思っている。今年度はこの仕組みや木材コーディネーターの人材作りを普及するため、NPOを立上げて活動を広げていく予定である。
(※
ウッズの活動について、詳しくはウッズのホームページ)
【第Ⅳ部】意見交換会
(コーディネーター)白石秀知/京都府南丹広域振興局農林商工部農林整備室
各報告への質疑応答(初日終了時も含めて)
(大阪府の報告についての質疑)
Q.市街地の建物の外壁への木材利用は、防火耐火基準はクリアしているのか?
現在の建築基準法では一定の防火耐火性能が確保されれば木材が使えるようになっており、京都でもそのような事例も多いと思う(三宅)
Q.英国のグリーンガイドでは木材とコンクリートタイルが同評価(A)とあるが本当か?
LCAの評価に加えて、英国ではコンクリートタイルが普遍的に使われているという背景も合いまって(A)という評価になっている(三宅)
Q.大阪府の木づかい制度はとても魅力的だが、どんな木でも良い訳ではなく、合法性証明などとリンクさせる必要があると思うがいかがか?
勿論、地域材であり合法木材である。今後は全木連と共にPRに努力したい(三宅)
Q.大阪府の木づかい製品の中のヒット商品は何か?
コクヨのファニチャーは人気がある。また環境浄化作用の高い杉チップも好評である。今後はフローリング等の内装材にも力を入れて行きたい(三宅)
(京都府、温暖化防止センターの報告ついての質疑)
Q.ウッドマイレージCO2認証制度の指定認証機関である京都府温暖化防止センターでの運営体制、運営費用、CO2算出根拠、はどのようになっているか?
当センターはNPO法人が知事の指定を受け、温暖化防止センターとなり、温暖化防止に関する活動を幅広く行っており、その1つとしてウッドマイレージCO2認証制度の認証業務も行っている、運営費用は、3,000円/件の証明書発行手数料と、取扱事業体各社より制度維持協力金として年間、平均1万2千円を頂き、年間約300万円の収入により運営している。CO2算出根拠はウッドマイルズ研究会のマニュアル、指標に準拠している(渕上:温暖化防止センター)
Q.京都府の制度は府民にどれくらい浸透しているか?
府民の方から大きな声があがっているというよりは、制度関係事業者の営業努力により徐々に浸透しているということが現状である。CO2削減量が見えるという分かり易さを武器に、より一層のPRを続け制度を発展させていきたい(柴田)
Q.府産材の証明はどのように行っているのか?合法木材制度との関連はあるのか?
取扱事業体の認定において、京都の木とそれ以外の木の分別管理が条件となっており、各々の段階の分別管理によって府産木材をユーザーへ届ける仕組みを取っている。また取扱事業体には合法木材制度の認定業者も多くいるが、そうでない業者もあり、完全に達成はされていない。今後の課題の1つである。(柴田)
Q.取組の広がりとして金融機関が優遇措置を行っているが、金融機関の独自の制度なのか?府との協定の締結等あるのか?制度の利用状況はどうか?
制度関係者を支援するため、金融機関独自の取組による商品であり、府との直接的な協定等は無い。他の金融商品の方がメリットが大きい場合も多く、制度の利用実績の数は少ない。
Q.京都府内産材の品質確保は今後どのようにして行われるのか。どのように取り組むのか。京都府の制度ではトレーサビリティが保証されているが、品質が保証されているわけではないので、取扱事業体に規格や乾燥などを任せてしまうのは、信頼性に欠けるのでは。
制度では品質管理までは含んでいないが、品質確保は欠かせない要件であり、近々に解決しなければならない課題である(柴田)
Q.全ての取扱事業体がこの制度に前向きなのでしょうか。中にはHPに企業名が載ればよいという考えの事業体もいるのでは。
取扱事業体は3年、緑の事業体は1年という認定期間を設けており、実績の無い業者は認定を取り消している。積極的に利用して頂ける業者のみを認定するという形で取組んでいる(柴田)
Q.府内産材だけで家づくりは可能なのか?
供給量からしても全てを賄うことはできないが、少しずつ増やせるよう努力を続ける(柴田)
Q.ウッドマイルズのカーボン・オフセットについて、輸入材の情報もある程度蓄積してきたので、是非色々なプロジェクトを進めて欲しい
山側をどうするのか、どのような産業にするのか、という根本的な議論も重要であり、その1つの方法にカーボン・オフセットがある。センターとしても計算書発行だけではなく、今後はそのような点にも寄与していきたい(伊東)
(彩工房の活動についての質疑)
Q.京都材を使うと1.5倍も時間がかかり、割高にもなると思うが、何故そんなに時間がかかるのか。京都材の使用が環境にやさしいと言っても、時間もかかりコストもかかるのでは、皆腰が引けてしまうがどう思うか?また、北山杉ではない京都杉の魅力を聞きたい。
設計木拾いが終り、構造材を発注すると、納材まで約3週間かかっている。尺越えの梁や化粧梁など無理な場合は京都材にこだわらなくても良いとしているが、全て京都材という仕様の場合は、1ヶ月以上かかることもある。認証材はしっかりと管理されたものなので、ある製材所が窓口でも、数社が協力して集めて出荷している。また、コストも若干高いが、認証材は交付金が出るので、その点も影響しているのかもしれない。今はそれよりも流通が回っていくことを重視しており、流通が回らないと何も始まらない。ある程度の量が回り始めるなかで、納期やコストも解決されていく問題だと思っている(森本)
ウッドマイレージCO2認証制度には、地元の材を地元で使う、という意味があり、地元の各業者が安定的に繋がり、地元材が安定供給されることが重要で、京都産材の売りは、地域にとって総合的に見たときに良いと言えるものであり、運動であると思っている(白石)
Q.森本さんが新月伐採材を使った話をされたが、私も一度京都で試みようとしたが、伐採方法が危険とのことで断られた。どうやってそれを説得したのか教えてほしい。また、府内産材の安定供給に向けて常に3棟分のストックを持つよう心掛けているが、資金的にとても厳しい。森本さんの所でもストックされているが、一度買い取っているのか?
新月伐採の事例は、新月伐採に特に興味のある研究会メンバーによる特殊なものであった。商売の観点だけではなかなか難しいので、山持ちが興味を抱くきっかけづくりが必要だと思う。ストックについては原木から購入するやり方は歩留まりも悪く、無駄が多くなるため、現在は製材所の方へ必要な寸法を指示し製材してもらって積み、この積んだ段階で、仕上製材後の立米にて購入する形をとっている(森本)
(ウッズの活動についての質疑)
Q.立木のデータベースは何年生くらいの木から行っているのか、また品質管理はどのように行っているか?
調査の際に50~60年生程度の林分と予めエリアを決めてやっている。また立木の状態で森林所有者と共に建築用材としての品質を判定しているので、100%確保出来ている訳ではないが、実績を重ねるにつれ、エリア毎の品質の傾向が少しずつ分かるようになってきている。一方で施主にとっても建築用材として使用できることが前提となっており、顔の見えるお互いの協議の上で成立している(安田)
Q.森林データベース作成に関する費用は?また立木がストックである場合、乾燥はどうするのか?
今回は試験的な試みであることや、曲がり材等も含めた詳細な調査の実施やデータベース作成も含めると、具体的な費用はちょっと言い難い。ただ、平均化すると1haの調査が4人×2日で終る程度である。含水率については、製材を天然乾燥でストックするという方法も今後の課題であるが、現状では立木を買ってから建て方までの時間が少ないため、人工乾燥の場合もあれば天然乾燥の場合もある。設計者として含水率はやはり20%以下にすべきと思っている(安田)
Q.例えば10億の総事業費の場合、木材コーディネートはいくらになるか?実は地域で現実に新庁舎を建てる計画があるのだが、木材コーディネートのような人材が無く、結局木材が使われないものを改めるよう帰って提案したいと思っている。
費用については業務内容によるので、実際に見積をしないと何とも言えないところだが、地域材の問題は供給側の問題と言ってしまえばそれまでだが、発注者側がもっと供給まで入り込み、木材コーディネートできる人材がそこで活躍すべきだと思っている(安田)
(ウッドマイルズについての質疑)
Q.木材輸送過程には、丸太、製材と色々と形状がことなるが、どの部分の材積でウッドマイルズは算出されるのか?
現在は最終製品の材積に統一して全ての輸送過程を算出している。以前は丸太輸送部分は丸太の材積と分けていたが、算出が煩雑化する点と、端材は端材製品の方でウッドマイルズが算出でき、ダブルカウントを防ぐためにも、最終製品の材積に統一している(滝口)
(地域材を生かすために何が必要か)
色々とやってきて、農林行政と建築行政の違いも見えてきた。農林の方は木材が製材されよい製品になるところまではたいへん興味を持つが、その後にはあまり関心を持たない。一方で建築行政は、工務店に対する支援は無く、今回のウッドマイレージCO2の交付金が初めてである。ここで思うのは、農林と建築の間で情報が切れているということで、実際に木材業者との間であった話だが、ストックされている材と我々の欲しい材の量が反比例の関係であった。製材業においていくら歩留まりがよい材でも建築にとっては歩留まりが悪くなる。建築からのニーズが山に瞬時に伝わって生産させるシステムが本当にできれば理想的である。また、家は工務店のものではなく施主が建てるものであるので、施主教育がとても大切である。ウッドマイルズのようなものも、まずは施主に分かってもらわないと話がはじまらない。特に当方に依頼のあるお客さんは意識が高い人が多く、ハウスメーカーとどちらにしようかという人はまずいない。既に依頼時点で家づくりの方向性が決まっている。それから地域材を使うと、という話を提案しており、できればもっと前の段階で、ウッドマイルズのような話がお客さんに届いているとなお良い(森本)
大阪府行政の立場としてずっと大阪の木を使わなければと取組んできたが、いざ木材を使用する立場になってみると、CO2の環境指標、川上川下の連携、乾燥等の品質管理と、解決すべき問題が依然としてあると思っている。また時間通りに供給するということも大きな課題であり、ストックの整備なども重要である。大阪のアンケートでは8割近くの人が地域材、国産材を望んでいるが、どこに行けばあるのかが分からない状況であり、展示場所もほとんど無い。大阪のような多くの人が集まるところに、もっと地域材の展示場所を増やすべきである。このような問題を総合的に解決することが、地域材の現実的な活用に繋がると思う(三宅)
ウッドマイルズがあれば地域材が良くなるというものではなく、色々なものがある程度のレベルになっている所でウッドマイルズを使うと、とても効果があるものだと思っている。また、環境指標という側面からも、ウッドマイルズだけではなく、他の指標との連携が求められており、今後の課題である。最近の実務では、山に近づくほどコストが高くなるという経験もして、ある程度市場に揉まれないと、適正な価格や品質が生まれないという側面もあり、そんな中、木材コーディネーターの存在はとくに求められると思う。藤本会長も、地域の建築士が、地域材のコーディネート業を担うことで、設計者の職能拡大や活性化に繋がるとおっしゃっており、研究会としてもこの推進に寄与していきたいと思っている(滝口)
産業の発達の際には最初に産学共同があるので、森林に対しても産学行動協同による形があると思う。また、ウッドマイレージを生かすためには、行政単位で見るのではなく、流域単位で見るべきである。かつてはいかだで川を下りガスの排出もなかった。このような日本の伝統が狂ってしまったものを再構築する目で取り組んで欲しい(会場)
ウッドマイレージCO2認証制度は、そもそも他府県産ではなく地元の木にもっと目を向けてもらうために発足した制度であり、地域の業者の方々の協力を得つつ制度が拡充してきた。現在は取扱事業体の方からも様々な意見が寄せられるようになり、運営協議会にてようやく色々なことを議論できる時に来たと感じており、当初は府主導であった制度がいよいよ民間主導となり数年後にはかなり発展した制度になると期待している。また環境団体である当方が制度では環境認証をしているが、今後求められる品質認証ができるのかという点は大きな課題である。認証制度ではCO2削減量を施主に伝えることができ、意識の高いユーザーには満足を与えられるが、企業間の排出量取引に使えるものにはなっていないため、今後はこの部分も精査し、地域材利用の幅を広げていきたい(渕上)
(今回のテーマ、今後について)
ウッドマイルズが単に近ければよいという指標になってしまうと、県境を越える流域の流通を阻害したり、色々な取組の評価に支障をきたす。地域の森林や環境への取組と連携した指標となってほしい(安田)
消費者が理解しないとこの問題は解決しない。昨今、建築基準法の改正により設計者や工務店には危機感が強く、へたすれば木造住宅を供給している工務店すら否定されることになりかねない。食えない設計者もたくさんいる。やはりもっとデザインにお金をかけるべきで、よい木材だけでは通用しない。よい住宅をつくるための要素の半分はデザインである。ちゃんと設計料をかけ良いデザインを手がけ、施主に受け入れられれば、その結果として地域材利用の量が増え、温暖化防止へもつながるということが現実的だと思う(森本)
地域材は環境指標と共に品質も伴うことが欠かせない。また県産材という枠組みだけではなく、近畿圏の材という枠組みも今後は必要である(三宅)
より広い範囲で考えることは必要である。また、証明書の計算発行だけではなく、様々な部分での関係者の協力を得ながらやっているので、今後も精進していきたい(渕上)
環境指標を武器に行っている制度では、品質確保や行政の関わりの限界など、様々な問題もあるかと思うが、今回のセミナーの様々な議論をヒントに、制度の可能性の部分をさらに拡充していきたい(柴田)
7月に行った東京のフォーラムでは、環境指標の連携をテーマにした。研究会ではウッドマイレージCO2だけではなく、森林吸収や省エネ住宅も含めたトータルな指標を作り、より幅の広い、より施主に伝わる環境指標づくりに当面は努めていきたい。これによって行政境や農林・建築行政の連携といった問題も解決していけるのではと思っている。また、藤本会長のもと、地域の建築士による地域材普及への取組にも挑戦していきたい(滝口)
今回のセミナーは研究会会長に藤本氏が就任頂いたこともあり、今まで以上に建築関係者に参加いただけた。今後はエンドユーザーである市民の方々も参加できるセミナーができればと思う(白石)
- 作品名
- セミナー2008
- 登録日時
- 2008/09/23(火) 10:45
- 分類
- 2008年度