建築材料世界会議(バンクーバー)
8月22日から 24日(現地時間)にかけてカナダのバンクーバーで ConMat '05 ( The 3rd International Conference on Construction Materials )という国際学会が開催され、そこでウッドマイルズ研究会設立後初めて国際学会での発表が行われました。
この ConMatという学会は建築材料学会というよりはむしろ建設資材学会という方が当っていて、コンクリート関係の専門家が非常に多かったようで、 70 ほどの分科会の中で木材関係の分科会は 2 つしかありませんでしたが、当日の分科会では 20 人程の聴衆を前にしてウッドマイルズの報告が行われました。
Evaluation of Timber as Building Materials on Energy Issue and the Woodmiles : The Background and the Development of the Woodmiles Forum in Japan(建築資材としての木材のエネルギー評価とウッドマイルズ指数の開発 : 日本におけるウッドマイルズ運動の展開とその背景)
という表題で大きく分けて以下の 3 つの内容を発表しました。
Part 1: Timber building materials in Japan and its evaluation based on energy consumption(エネルギー消費から見る日本の木質建材の評価)
日本の森林資源の状況や木造住宅の割合、木材輸入の現状の紹介から始まり、木材は再生可能で製造エネルギーの少ないエコマテリアルとして優れているが、遠隔国からの輸送エネルギーが極めて大きく木材輸送過程のエネルギー消費は、建設時の環境負荷削減や、エコマテリアルとしての木材にとって大きな課題であることを 訴えた。
Part 2: Development of the woodmiles indexes and application of them (ウッドマイルズ関連指標の発展と適用)
ウッドマイルズ研究会の発足からその活動のひとつとして関係指標の開発を紹介。その指標を使った算出事例の研究紹介を行い、ウッドマイルズ関連指標は住宅に使用される木材の輸送過程の消費エネルギーを明快に示す指標であり 、また、ウッドマイルズ関連指標によって住宅の住まい手や作り手、及び木材供給者や森林所有者のネットワークが深まるという効果を訴えた。
Part 3: The possibilities and the assignments of the woodmiles (ウッドマイルズの使命と可能性)
ウッドマイレージ CO2 を組み込んだ京都府産木材認証制度を紹介し、 ウッドマイルズの概念は、日本において、行政や学術の分野で広がりつつあり、木造建築物の環境負荷や消費者と木材供給者との間の透明性を評価する上で、重要な鍵を握る指標であることを紹介した。
発表後の質疑では 2 つの質問がフロアから出ました。
質問の一つは、分科会の司会をした UBC ブリティッシュコロンビア大学森林科学部の Lam 教授からのものでした。
ウッドマイルズでは木材の輸送過程の CO2 の排出量を推計しているが、木材を運んだ返りに貨物がある場合と、からで帰ってくる場合では木材の輸送エネルギーは違うと考えるべきではないか?
これはその通りで、欧州材の輸入急増の背景には、アジアから欧州向けの輸出増大により返りのコンテナが余っているという物流事情があるという話はよく聞く話です。発表者の藤原さんからは、「エネルギー消費原単位という公開されたデータを利用しているのでそこまでは考慮していないが、今後の課題」という返答がありました。
国際学会の発表での最大の難関は、発表自体はしっかり準備することによって何とかできても、質問をしっかり把握して対応できるかどうか、という点だったので一問を回答した時点で、やったという感じだったそうです。
二問目は鉄鋼の関係の仕事をされているという方からでした。
木材だけでなく他の資材についても研究を広げてゆく考えはないのか?といったことでした(と思いました。)
輸送過程だけのことだけでもなく製造過程のこともふくむ趣旨の質問のようなので、他の資材の製造過程のエネルギーは LCA の基礎データの中で研究が進められていること、輸送過程のことも若干の研究が進められている、こという返答でした。
最後に司会の Lam 教授が翌日のミニセミナーに少し触れられ、今回の ConMat'05 でのウッドマイルズの発表は終了しました。
短い時間でしたが、ウッドマイルズが公式に世界に発信された意義深い学会発表となりました。
ミニセミナー
ウッドマイルズ研究会は8月24日(現地時間)、バンクーバー(カナダ)にて国際学会 ConMat'05 の会場と同じホテルで同日にミニセミナーを開催しました。初の国際学会発表と同時に海外でのミニセミナー開催というとても大胆な試みでした。
1.Concept and meaning of Woodmiles(藤原)
15 分の学会発表で説明できなかった部分を含めて、より詳しく再度ウッドマイルズの概念と意義の説明が行われました。
2.Calculation of woodmiles(滝口)
4 つのウッドマイルズ関係指標の意味と算出方法の説明から 7 棟の住宅の算出事例研究をもとにウッドマイルズの効果や必要性、方向性が示されました。
3.意見交換
2 つのプレゼンテーションに対する質問やウッドマイルズ研究会の活動に対する意見を頂きました。以下その内容です。
輸送エネルギーへの変換は体積ではなく重量に依存する。木材の輸送状況によっていろいろ密度が変化するので、体積で計算するのは問題ではないか。
消費原単位の基礎データはすべて重量に対して公表されているのでご指摘の通りの問題がある。ただし建築の現場では木材の利用量 は材積で取り扱っているのでそれに併せて材積のパラメータとしている。
ウッドマイルズの意味はあまり難しい 計算の精緻化に陥らないという面がある。
とう回答でした。
また、建築学会などの場でもっと発表してほしいという指摘、材料の性質の数値情報化に取り組んでいるところでウッドマイルズにもエールを送りたいという暖かいご指摘がありました。
海外での初めてのセミナー開催は新たな経験と学ぶところが多かったことを含めて、ウッドマイルズ研究会として今後の活動の布石となる貴重なセミナーとなりました。
学会終了後、バンクーバーの関連大学や木材販売店の視察も行いました。
ブリティシュコロンビア大学森林科学センター
2005 年8月25日
ブリティシュコロンビア大学森林科学センター内
Gary Bull, Assistant Professor, Forest Resources Management
David H. Cohen, Professor, Faculty of Forest
の二人と、1時間ほどウッドマイルズ及び関連するについての討議をしました。
Cohen/ウッドマイルズは木材の輸送過程のエネルギーのことを扱っているが、木材のライフサイクルエネルギーについての研究は、もっと幅広い包括的な研究が必要だがどう考えるか?
(その通りで、いろいろな研究がされている。ただ LCA 研究の中で輸送過程の話は弱点になっていることはある)
Bull/気候変動条約の将来のスキームの中にウッドマイルズはどのように盛り込むと考えるのか?
(京都議定書の第二約束機関以降の将来の交渉で木材のストックを考慮していく方向になっていることは理解している。現在の枠組みは各国の中のことだけを約束す る枠組みであり、国際間の流通過程のことはエアポケットになっている。ウッドマイルズが将来の枠組みに影響を与えられればよいが、現在は建築の評価というところに力を入れているところ)
Cohen/市場の中でどう評価されているか?日本の住宅市場は乾燥材や、パワービルダーの進出により工期の短縮などに関心がいっている。価格・品質などが重要である中でどの程度環境的要素が消費者の選択に影響をもたらすか?
(重要な指摘。最近日本でもグリーン購入を巡る動きは結構動きがあり、環境共生住宅や CASBEE など建築関係でも環境を評価しようという動きがある。ただし 環境に金を投じることはなかなか難しい課題。ウッドマイルズは環境負荷という側面もあるがトレーサビリティという面で消費者の関心を集めている面がある、 などと説明)
Cohen/カナダでも LEED が急に拡大のスピードを速めている(早すぎるほど)。その中には近くの資材を優先使用するという考え 方も含まれている。冬季オリンピック( 2010 年バンクーバー開催が決まっている)の施設も LEED で評価させる予定。環境的な購入指向は公的な購入や大 企業の購入が先導するものである。 LEED ではウッドマイルズほど精緻ではないが近くでできた資材を奨励するという仕組みになっている。建築の環境的な側 面を研究する動きとして、 ATHENA グループ http://www.athenasmi.ca/index.html 、 Consortium for Research on Renewable Industrial Materials ( CRRIM ) http://www.corrim.org/reports/ などの動きがあり、活発である。
Cohen/乾燥材のエネルギーも将来問題となる可能性があり、現在カナダではほとんどがバイオマス由来のエネルギーに依存している。
(カナダは輸出国の立場でウッドマイルズについて何かコメントがあるかという問いに対して)
Cohen/主たる輸出市場は近距離の米国であり、ウッドマイルズに利害が一致する面もある。
二人は日本や中国のマーケットの最新事情に詳しく、また、消費者の環境指向といった動きもフォローされていて大変有益な1時間でした。
エコランバーコープ訪問
ウッドマイルズは,伐採現場と建築現場の間の輸送過程に着目することによって環境配慮型の木材流通を実現しようとしています。森林管理の質を認証する 森林認証は森林管理に焦点を当てるところから,ウッドマイルズと相補って森林管理,木材流通,建築のあり方を見直す有効なツールだと考えることができます。
2005年8月22日から 24 日開催の CONMAT05 に参加する機会を利用して,(おそらく)北米初の認証材専門店を 8 月 30 日に訪問しました。エコランバーコープでは,FSC 認証材を専門に取り扱っています。
同コープ(=協同組合)はバンクーバー近郊のリッチモンドにある産業団地に拠点を置いています。オフィスとバックオフィスがひとまとまりとなったユニットを 2つ利用しており,1つのユニットではオフィス部分を製品の展示場兼事務所として利用しバックオフィスを製品倉庫としていました。もう一方のユニットはユニット 全体を倉庫として利用していました。まず,倉庫の品物を見せていただきました。オレゴンから輸入した合板が積み上げています。フローリング材も在庫されています。 多くの認証林で生産される二次林産の米マツフローリング材に特に力を入れているとのことです。イギリスに多く輸出されている米スギ材( red cedar )も多くあり, 外構材に使用されるとのことです。
その後,同コープの Cam Brewer 氏にインタビューを行いました。以下はそのやりとりです。
問:どのような経緯で設立にいたったのか?
答:私はもともと環境問題の活動家であった。多くの小規模経営から森林認証を取得したが売り先が無い,との声を多く聞いた。供給と需要とのギャップを埋めるため ,関係者と会合を重ね設立にいたった。 2002 年に協同組合を設立し, 2003 年に店を開いた。
問:協同組合の構成員はどのような団体か?
答:全体で約 25 団体ある。約 15 団体が認証を受けた生産者で,残り約 10 団体はグリーンピース,シエラクラブなどの環境保護団体である。
問:それらの団体が資金を提供したのか?
答:資金の多くは基金からの資金および借入金である。
問:仕入先はどのようなところか?
答:大半は組合員からである。
問:販売先はどのようなところか?
答: 80-70 %はヨーロッパ,アメリカへの輸出である。 Clayoquat Sound から出てきた米スギが多い。特にアメリカでは LEED 関係の建築需要がある。 輸入合板はバンクーバー地域での LEED 関連の建設プロジェクトへの販売である。フローリング材もバンクーバー周辺での販売である。全体としては問屋業である。 ヨーロッパでは小売段階での理解がある。北米では LEED 関連の商業建築需要が主である。
問:商売の形態は?委託販売か?それとも買い取りか?
答:委託販売はうまくいかなかった。現在は売り先を確保している品物を買い取っている。
問:売上げはいかほどか?
答: 2003 年の6ヶ月で 180 千ドル, 2004 年は 850 千ドル, 2005 年は 1,000 千ドルを超えるであろう。
問:価格プレミアムはいかほどか?
答:5%取れることもあるが場合によりけりである。
問:何人の人が働いているのか?
答:私と材のハンドリング担当が2名が今のところ中心になっている。材のハンドリング担当者は知り合いを必要なときは数人呼んでくる。来月から管理担当者をおく 予定である。販売担当者を募集している。販売担当者には建設会社への売込みをやってもらう予定である。
問:今後の見通しは?
答: FSC が今後も厳格な基準を維持することを望む。 LEED は FSC の地位の向上に大きく貢献している。現在では HomeDepot の動きよりも影響が大きい。 2010 年の冬季オリンピックはバンクーバー・ウィスラーで開催することとなった。 IOC に提出した計画書では,建築は LEED に従ったものとすることとしている。 これを守らせるのが我々の次の目標だ。
必要ならば環境活動家が木材問屋まで開店してしまう―この実践力には脱帽です。日本での地域材で家を建てる運動について簡単に説明すると, 「それは認証よりさらに先を行っている」と感心されました。ウッドマイルズをはじめとする日本の先進的な動きについて世界に発信する必要性を実感しました。
- 作品名
- Conmat05
- 登録日時
- 2005/08/24(水) 12:00
- 分類
- 2005年度